イスラムでニュースを読む
|
||||||
著者
|
富田律 | |||||
出版社
|
自由国民社 | |||||
定価
|
本体価格 1800円+税 | |||||
第一刷発行
|
2000/4/5 | |||||
ISBN4−426−76701−6 |
なぜいまイスラムなのか 二一世紀への過渡期になって、イスラムが影響力拡大の大きなうねりを上げるようになっている。 また、九九年にはキルギス南部で、ウズベキスタンのイスラム武装集団が日本人技師を拉致し、その身柄を三カ月に渡って拘束するという事件が起こった。
イスラム政治運動が台頭するわけ 中東イスラム世界では、欧米型の近代化が貧富の差の拡大や、失業・インフレなど社会・経済的混迷、また政治腐敗などの矛盾を引き起こした。 そのため、イランの伝統の主要な要素であるイスラムによって政治・社会の改革や正義の実現を図るホメイニの主張が革命に大きなエネルギーを吹き込むことになった。 穏健派と過激派 世俗的政府が貧困層の救済などに力を入れてこなかったことなどを背景に、エジプトのムスリム同胞団、レバノンのヒズボラ(神の党)などイスラム政治運動組織は、大衆に福祉や教育事業を広く施すことによって、支持を拡大してきた。 これらの組織は、イスラムの平等主義の原理に基づいて貧困層の救援活動を行っているが、エジプトのムスリム同胞団など穏健なイスラム政治運動組織は、福祉事業や選挙活動などを通じてその影響力の浸透を図ったり、政治参加の道を探っている。 穏健なイスラム政治運動に対してイスラム過激派は、武力による「ジハード(聖戦)」によって、不敬虔と考える世俗的政府の打倒とイスラム国家の樹立を目標としている。 さらに、二一世紀への移行期にあって、八○年代にソ連軍との戦争があったアフガニスタンを拠点に、オサマ・ビン・ラディンを中心とするイスラム過激派のネットワークや活動が広がりを見せ、その影響はタジキスタンやウズベキスタンなど中央アジア、チェチェンをはじめとするコーカサス、またボスニァやコソボなど東欧、さらにフィリピンや、中国、また欧米にまで及ぶ勢いである。 米ソ対立とイスラム世界 一九八○年代、アメリカはソ連との対抗上、アフガニスタンのムジャヒディン(聖なる戦士たち)に最新鋭の武器や資金を供与し、またイスラム世界の盟主を自任するサウジアラビアも無神論の共産主義の進出をくい止めるために、資金援助やイスラムの厳格なイデオロギーの普及に努めたが、その中で最新の軍事技術を身につけ、また復古的なイスラムの理念に共鳴する過激なイスラム主義が次第に育っていくことになる。 八○年代のアフガン戦争には、イスラムの大義によってムジャヒディンを支援するために、イスラム世界各地からムスリム義勇兵たちが参加したが、彼らは強大なソ連軍の撤退を実現させたという自信から、本国や出身地に帰ってイスラムの理想の実現を図るようになった。 アフガニスタンでソ連軍と戦闘を行っている間は、アメリカから援助を受け、親米的なスタンスをとっていたイスラム勢力であったが、九〇年代に入ると、急速に反米的な主張や立場を強めていった。 注目される中央アジアのイスラム アフガニスタンでは、二〇年以上に及ぶ戦闘の結果、国土や産業が荒廃した結果、麻薬や武器の取引などが横行するようになった。 一九九九年八月にキルギスで日本人人質事件を起こしたウズベキスタンのイスラム武装集団もまた、ウズベキスタンの権威主義体制や市場経済化の失敗など増大する政治・経済危機を背景に台頭した。 イスラム世界では、人口増加、失業、インフレ、民主主義の欠如、さらに環境の悪化などを背景に、またこれらの問題が容易に改善されないために、さらには欧米の諸国のイスラム世界への進出やその経済的優位によって、人々の伝統的価値観であり、弱者の救済を説き、社会正義の実現を訴えるイスラムがいよいよその求心力を強めていくに違いない。
|
|||