生まれたついでに生きる
著者
キン・シオタニ
出版社
マガジンハウス
定価
本体価格 1800円+税
第一刷発行
2002/03/22
ISBN4−8387−1339−8
全ポストカード 作品 & 早すぎた自伝

 

インパクトのある独特な画風、一行詩のようなタイトル・・・。ユニークな世界を創りあげる注目のアーティスト、キン・シオタニの全ポストカード作品65点を紹介。放浪の旅、人との出逢い、井の頭公園でのゲリラ売りのエピソードなど「早すぎた自伝」も収録。

 

マガジンハウス の紹介のページ

2002/3/24(日) BOOKSルーエにてサイン会。たくさんのお客様にご来店いただきました

 

「黒の時代」

僕は学生時代から、何かを「かく」人になりたいと思っていし絵かもしれないし、文章かもしれない。
でも、僕は文学青年だったから、どちらかというと絵よりは文章だと思っていた。
僕はそのころからみんなに作家になると言っていたが、友達はバカにして、お前にかけるのは恥ぐらいだ、と言った。
うまいことを言うなあ、と感心はしたが、そんなこともいつかネタにしようと思い、僕は根拠のない自信を持ちながら、発表されるあてのない文章を書きためていった。
大学を出ると、僕は何もしないまま僅かばかりの貯金を食い潰す「低く暮らし、高く生きる」日々が4年続いた。
いや(やっぱりそれほど高く生きてもないか)無気力だった。
その頃のことは、2001年に出た版画集『無気力爆発』に書いたからここではくり返さないが、僕は毎日、ただ自転車でぶらぶらしたり、本屋に寄っては立ち読みをしていた。
そんな何もない一日の締めくくりとして、何かひとつ、今日はこれをやった、と言えるものが欲しかった。そうしていつも、小平駅前のミスタードーナツに寄って、詩や文章を書いていた。
ある時、急に絵を描いてみようと思い、年賀状の時に使った筆ペンとハガキで、自分でもどんなのができるか分からないままペンに任せ、適当に描いていった。
そうして出来た記念すべき第一作が、「山手線の全駅名を順番に間違わずにスラスラと言える青年」だった(タイトルは世の中に出る時になってあとからつけたもの)。
絵が完成すると、今見る客観的な評価はともかく、自
分の中の満足感、達成感といったら、それまでの何年間か味わったことのないものだった。
以来、僕はその満足感欲しさに、毎日ミスドに通い、オールドファッションを食べながら絵を描いた。
店の人たちは「この人、何者なんだろう?」という目でコーヒーのおかわりに応じてくれた。
実際、僕は何者でもなかった。
あの時、ミスドでバイトしていた人たちは、奥の席で描かれていた変な絵が、今、世の中に出ているって気付いてくれているのかな?
作品はアール・ヌーヴォーに影響を受けている。
ビアズリーなどの、あの背景を埋め尽くす装飾が、暇つぶしと達成感にはばっちりだった。
当時の絵の一番の特徴はそこにある。
23歳の時だった。この時期、僕はたいてい黒い服を着ていた。
黒のジーンズに黒のタートル、冬は黒のジャケット。心の中も、考えていることも、そして描いている絵も、ブラックだった。
この時期の作品は、僕が25の時にポストカードとして発売され、その翌年、第一作品集『ばかと40人の青年』に収録されることになる。
しかしその時はそんなことは深く考えもせずに、ただ夢中で背景を潰していただけだった。

 

 

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(キン・シオタニ 直筆サイン・イラスト 入り)

 

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