メロンが食べたい
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著者
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安西水丸 | |||||
出版社
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実業之日本社 | |||||
定価
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本体価格 1500円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/10/26 | |||||
ISBN4−408−00770−6 |
ぼくのような仕事をしていると、どこで住所を調べるのか(たぶんマスコミ電話帳だのイラストレーション年鑑なのだろうが)わからないが、あれこれと仕事に関係のない郵便物や小包が届く。 ファンレターらしきものもあるが、たいていは困ったものが多い。 勘弁してくださいよといったものがほとんどといっていい。 決してダイヤモンドや金塊は届かない。 だからいつも封を開けるのが怖い。 特に突然に届く小包や宅配便のダンボール箱は怖い。 開ける前にしばらく考えてしまう。 これは昨年のことだが、ある日突然に大きなダンボール箱が届いた。 もちろん差し出し人の住所も名前も書いてある。 ちなみに住所は関西地方とだけ書いておく。 差し出し人は女性である。 とにかくダンボール箱を開けてみたところ、なかには古新聞がいっぱい詰まっていた。 なんだこれは? 古新聞を一枚一枚外に出していった。 ちょうど真んなかあたりまできた時、封筒が入っていて、開封してみると、わたしの描いた絵を見て欲しいといったことが書いてあった。 確かに、封筒の下にはクロッキー用紙に描かれた二十枚ほどの絵があって、どれもちょっとグロテスクな漫画タッチの作品だった。 手紙に書いてあったことを要約すると、その女性は現在親戚の家で家事手伝いをしており、ぼくに絵を見てもらった結果次第では今 そんなあ、責任を押しつけられても困りますよとおもったが、はっきり言って絵の方は今ひとつプロにはなれない弱さがあった。 ちなみに、手紙によると彼女は二十代後半の女性ということだった。 一枚一枚絵をダンボール箱から出していくと、驚いたことに一冊の写真アルバムが出てきた。 よく写真屋にD・P・Eを頼むと、出来上りにくれるあのアルバムだ。 それで、そのアルバムを開いてぼくはさらに驚いた。 なんと全裸に透明のビニールコートを着た女性の写真がファイルされていたのだ。 写真の女性は正面、斜め、うしろと、さまざまなポーズをとっていた。 これは、なんというかなかなか見ごたえがあった。 ぼくはすっかり写真に見入ってしまった。 数日後、ぼくはひとつの行動をとることになった。 というのは、この女性の手紙には電話番号もきちんと書いてあったのだ。 土曜日で、ぼくはひとりで仕事場にいた。そしてついに胸に引っかかっていたことを解決するため決行することにした。 ぼくはその女性の電話番号のダイヤルを押したのだった。 「もしもし、あの、絵を送っていただいた安西ですが」 「あ、申しわけありませんでした。突然あのようなものを送りまして」電話に出たのは本人で、彼女は関西のイントネーションで言った。 ひととおり絵の話に決着をつけてから、例の写真のことを話題にした。 この電話でほんとうに訊きたかったのはそのことなのだ。 「あの……、写真のアルバムのことですが」 「あ、あれですね」 「あの……、どうして裸に透明のレインコートを着てるんですか?」 「あ、はい」 「裸なら裸で、その方がいいとおもうんですが」ぼくもよく言うものだ。 「あの、わたし、肌につめたい感触が好きなんです。それで……」いやあ、まいった、まいっただ。 |
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