ルネッサンス 再生の挑戦
 
  私の闘いは、これから始まる。世界が注目するリーダーが、人生とビジネスのすべてを熱く語った!私は経営トップとしての責任を真摯に受け止めている。だからこそ、日産リバイバルプランに着手するにあたって、日産を黒字化できなければ辞任すると宣言したのである。ああいうことを口にするのはクレージーだと言う人もいるが、決してそうではない。私は自分の信念に忠実に話しただけである。社長は自分の最も重要な任務に集中し、やり遂げなければならない。そして、万が一失敗したときは、その結果を受け止めなければならないのである。  
著者
カルロス・ゴーン
出版社
ダイヤモンド社
定価
本体価格 1840円+税
第一刷発行
2001/10/25
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ISBN4−478−32100−0

はじめに

ルネッサンスそれは復興を意味する。
歴史的には、一四世紀から一六世紀にかけて、ヨーロッパで文化と芸術が復興した時代を指す。

当時の芸術家、作家、思想家たちは、西洋文明のルーツをいにしえのギリシャ・ローマに求め、絵画や文学から科学、哲学に至るまで、古代ギリシャ・ローマ様式を取り込んでいった。
ギリシャ・ローマ文化の復活は、中世ヨーロッパを支配してきた信仰のさまざまな足かせを断ち切った。

中世ヨーロッパの人々は、人は地上では苦しみを強いられるが、死ねば天国で永遠の報いを受けられると信じ、疑うことなく運命を受け入れた。
「なぜわれわれはここでこうしているのか」と問われれば、彼らは口をそろえて「なぜならわれわれは常にこうしてきたからだ。

これは神の定めなのだ」と答えただろう。
しかし、ルネッサンスの到来とともに、ヨーロッパの人々は再び人間を存在の中心に置くようになった。

彼らはそれまで受け入れてきたやり方と牢固たる信念に挑戦した。
古いドグマを捨て去り、物事を批判的に分析する思考方法を身につけ、目を開いていった。

そして、芸術と科学の再発見へ、さらには新世界への旅へと乗り出していったのである。

今日、日産自動車ではもうひとつのルネッサンスが進行中である。
かつての日産がしがみついていた考え方とやり方は、グローバル市場の試練と必然性によって時代遅れとなり、日産には倒産の危機が訪れた。

社員の多くは変革の必要性を感じていたが、これまでのしがらみに縛られて有効な手を打つことができなかった。
日産リバイバルプランは、経営の中心に社員を引き戻すことによって、日産ルネッサンスの幕を開けた。

社員たちは従来のビジネス手法の有効性を問い直し、安穏とした心地よい伝統に果敢に挑戦し始めた。
彼らは一度は失った自信を取り戻し、熾烈な競争下にある自動車市場でビジネスを展開していく足場を再構築した。

そして、グローバル戦略の必要性を認識し、みずからの手で会社の進路を切り拓くという、本来の仕事に立ち返った。
日産ルネッサンスは、変革の必要性を痛感し、進んでリスクを引き受けた人々の物語である。

彼らがいかにして会社への誇りと自分への自信を取り戻したかの物語である。
では、日産ルネッサンスにおいて私が果たした役割は何か?

本書を書こうと思い立った第一の理由はそこにある。
自分の私的な生活やプロフェッショナルとしての経験について、私がこれだけ多くを明らかにしたのは今回が初めてである。

それどころか、私にとっては本を書くこと自体これが初めてである。
私は日産の復活に至るまでの自分の人生を跡づけてみようと心に決めた。

このところ、私個人に関する記事や本が数多く出版されているが、その内容を知るにつけ、自分の手ですべてを明らかにし、私が行ったことについての判断を読者に委ねたいど思うようになった。
これまで私が下してきた決断の理由と根拠をぜひとも理解してもらいたいと思ったのである。

本書を書いた第二の理由は、日本が低迷から抜け出し、その高い潜在能力を存分に発揮するためには何が必要かという、昨今関心を集めている議論にささやかな貢献をしたいと考えたことにある。

私がしてきだこと、いま日産で起きていることが何かの参考になれば幸いである。
ただし本書は、この通りやればうまくいくという絶対の処方箋ではない。

企業の意思決定者にはたくさんの選択肢があるはずだ。
日産リバイバルプランのアプローチと手順は、数ある選択肢のひとつにすぎない。

だが、企業再建に力を尽くしてきた私の経験と洞察は、一部の日本企業を苦しめている難問の解決になにがしか役立つのではないだろうか。
私は日産に関係する多くの人々、そして広く日本の方々に、私たちがしていることを理解し、協力し、支えていただいたことへの感謝の気持ちを示したいと思っていた。
これも本書を書くに至った動機のひとつである。

最後に、本書は何よりも日本のみなさんに読んでいただくために書いたということを記しておきたい。
日本のみなさんは私と私の家族を温かく迎え入れてくれた。

本書は言わばその返礼である。
とはいえ、日本は、私が恩返しのつもりで何をしようと、とうてい返しきれないほどのものをこれからも与えてくれるに違いない。

カルロス・ゴーン

 

 

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