女房はドーベルマン
著者
野村克也
出版社
双葉社
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2002/05/25
ISBN4−575−29424−1
Xデーと野村家“沈黙の160日” 夫婦の今後は『離別』か、それとも『家族の絆』か?

緊急発売! 日本全国が見守るこの夫婦の行方は! 野村元監督みずからがはじめて語る沙知代夫人の実像。沙知代夫人との「初肉声」対談も収録。内容:「『この大バカ者…』女房への怒りと夫の責任」「Xデーと野村家”沈黙の160日”」他。

 

はじめに

沈黙の日々、 決意した「沙知代との今後」−

「あなたは野球だけやってさえいればいいのよ」
「お金のことはどうなってるんだ」
「あなたは何も知らなくていいの」
これが沙知代の言い分であった。
いつも万事、この調子である。
強い口調で、まるで吠えるようにまくしたてる様子は、まさしく、あの「ドーベルマン」を想起させる。
私は我が家の経理のすべてを沙知代にまかせきっていたし、彼女の言葉を信頼していた。
しかし、連日のように脱税疑惑のニュースがマスコミで報じられるようになってからは、すべてに対して鈍感だった私にある。
三十年間、金銭の管理を妻にまかせきり、私はひたすら野球に専念してきた。
言い換えれば、収入と支出のチェックから税金の支払いに至るまで、煩わしいことをすべて回避してきたのである。
一家の長として、家計や家財の管理に対し、あまりに無関心であった。
一切関知していなかったとはいえ、知らなかったで済まされる問題ではない。
つまり、今回の事件を招いたのは金銭管理に対する私の鈍感さなのである。
監督時代、自分が配下の選手に野球人である前に社会人であれと説いたことが今となっては心苦しい。
情けない。
罪の重さを厳粛に受け止めるとともに、世間をお騒がせしたことをこの場を借りてお詫びしたい。
事件以来、私の所在については、ホテルを転々としている、自殺したのではないかといったさまざまな風評が立ったが、ほとんどの時間を自宅で過ごした。
私は時間を、ひたすら考えることに費やしていた。
考えたのは私自身の今後であり、この三年間ですっかり極悪人にされてしまった妻・沙知代のことであり、息子・克則のことであった。
以前、ある尊敬する先輩からこんな言葉をいただいた。
「夫婦とは夫の想い、妻の想い、お互いの想いを成熟させていくことにある」
まさに夫婦生活の根幹をなす至言であると思う。この期間、私は夫婦の〃絆”とは何であろうかと何度も何度も自問自答した。
一方で、考えても考えても、導き出される一つの結論があった。
それは、私にできること、私に残されているものは、やはり野球しかないということである。
現役選手としての晩年に「生涯一捕手」を宣言したときから、その思いはいささかも変わっていない。
もう野球に関わることができないのだとしたら、これほど辛いことはない。
「恥を言わねば理が立たぬ」ということわざがある。
この際、私と沙知代の誤解多き生涯を、恥をしのんで語ろうと思う。
事実を述べることで少しでも私たちのことを理解してもらえたら、と思う。
自分の過去について、あらいざらい語り尽くすことによって、今一度、原点に立ち戻りたい。
そして、熟慮の末に選択した”道”……女房との関係において私が下した”決断”についてお話したい。

(本文P.9、10、11より 引用)

 

 

 

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