日本の死体 韓国の屍体
著者
上野正彦 文國鎭
出版社
青春出版社
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2002/06/10
ISBN4−413−03344−2
アイゴー。 二度殺すのか

二千体の殺人死体を解剖した文氏と二万体の検死をした上野氏。本書は、日韓法医学者の権威による初の対論 になる。「お前は死んだ人間を二度も殺すのか」と食ってかかる韓国人。「解剖するなら生き返るのか、生き返るのなら解剖してくれ」と詰め寄る日本人。日本と韓国でこんなにも違う解剖への意識、殺人の動機、死者の送り方・・・。34年来の朋友でもある両氏が、死体を介して見える生きる意味を語り尽くした衝撃の一冊。

 



著者紹介
上野正彦:1929年茨城県生まれ。元東京都監察医務院長。医学博士。現在法医学評論家として活躍。『死体は語る』はベストセラーに。文國鎭:1925年平壌生まれ。大韓法医学会名誉会長、高麗大学名誉教授。医学博士・法学博士。韓国法医学の草分け的存在。


まえがき

私は、韓国で主に殺人事件の解剖を行ってきた。
のべにすると約二〇〇〇体の殺人死体の解剖に携わってきたことになる。
私が法医学者になるまで韓国には法医学制度そのものが存在していなかったため、まさに一から手がけてきたことになる。
解剖を通して実に多くの事件に携わってきた。
私の生活は、第二次世界大戦後の韓国の犯罪の歴史とそのまま重なってくるといっても言い過ぎでないかもしれない。
愛憎にまみれた嫉妬殺人、絶望の果ての死、想像を絶するような快楽殺人……韓国で起こったさまざまな犯罪事件を通して、私は人の不思議さ、あるいは人の命の尊さに出会ってきた。

死体解剖のとき、韓国では、「お前は、死んだ人間を二度も殺すのか」と遺族が泣き叫んで反対する。
それに対し、日本では、「解剖して死者が生き返るのか」と食ってかかると聞いた。
また日本では、病院で死ぬのが当たり前になっていると言うが、韓国人は、家族が病院で死ぬことを極端に忌み嫌う。
加えて、日本と韓国では殺人の動機ひとつとっても大きく異なっているし、韓国ではいまも火葬ではなく土葬が普通になっている。
これだけとってみても、いかに韓国と日本の「死」に関する考えが違うかがわかる。
このように、上野正彦先生との今回の対談はまさに驚きの連続だった。

東京都監察医務院長だった上野先生から、「法医学の立場から日韓のより深い理解につながるような対談をやりませんか」という依頼を受けたとき、私は「お受けします」と即答した。
それはもちろん、これからの日韓友好の一助になればという意味もあったが、それ以上に、それが他ならぬ「上野先生」からのご依頼だったという点が大きかった。
上野先生との出会いは三四年前に遡る。
出会いは古いが、お会いしたのはその間、わずかに三回しかない。
それなのに、私の娘が日本の大学に留学をした際には、先生は娘の保証人を快く引き受けてくださったりした。
そのさり気なく温かいご好意を私たち夫婦は、その後、片時も忘れることはなかった。
人との出会いは、決して回数ではない。
何度会っても親しくならない人もいるし、上野先生のように数度しかお会いしていないのに何でもお受けしたいと思う人もいる。
私にとって今回の仕事は、仕事を超えて本当に楽しい友との再会でもあった。
そして、そのときの御礼を直接お会いして言うこともできた。二一世紀になって、こういう思いもかけぬ再会を果たせたのは望外の喜びでもあった。

それにしても今回、近いようで遠い国と言われた日本と韓国の違いをまざまざと見せつけられた話の連続だった。
その両国の違いを本書から読み取っていただき、ささやかでも日韓両国のこれからの友好の一助になれば幸いである。

二〇〇二年五月

文國鎭

(本文 まえがきより引用)

 

 
 

 

   

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