しまなみ幻想
著者

内田康夫/著

出版社
光文社
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2002/11
ISBN 4-334-92374-7
『母が殺された?・・・・』 旅情ミステリーの傑作 長編推理小説の 書き下ろし

(母は殺された?…〉来島海峡大橋から飛び降りた母の死に疑問を持った少女。偶然、彼女と知り合った浅見は、その死の真相を調べるため、しまなみ海道へ。はたして浅見は、少女の希望の光となれるのか?

プロローグ

テレビの人気番組『全国お宝捜査隊』が、「瀬戸内しまなみ海道開通記念」と銘打って、大三島町公民館ホールで収録されたのは、一九九九年五月のことである。その日は東京から三人のお馴染み「鑑定人」が来島して、地元の島々から持ち寄られた「お宝」の品定めをした。
大三島は大山祇神社の鎮座する「神の島」だ。
古来、武人の守護神として知られ、源義経に代表される、平安・鎌倉時代の武将たちが、戦勝を祈念したり報告したりするごとに鎧兜や刀剣類を奉納した。
それらは神社の宝物館に納められ、国宝・重文クラスのものも数多い。
それだけに「大三島大会」には、思わぬ掘り出し物が登場するのでは─と期待されたのだが、
案に相違して、価値の高い品はほとんど集まらなかった。
その中にあって、傑出していたのは、大山砥神社の裏山から発見された土器類だった。
土器の出品者はあまり風采の上がらない中年女性で、家に沢山ある中から五点を選んで持参したということだ。
文字通り玉石混清といったところだが、状態のいいものは七十万円以上の値がついた。
「鑑定人」の中でとくに土器類に造詣が深い木川佳樹が惚れ込んで、本番中から出品者との売買交渉をしたいと言っていた。
土器以外にも絵画や書などの程度のいいものには、他の鑑定人一小松牧俊、鈴木翔一が、それぞれの得意分野で売買交渉に臨むのだが、今回はあまり触手を誘うような逸品は登場しなかった。
その一週間後に放送された番組は、視聴率も上がり、概ね好評だった。
大山祇神社やしまなみ海道の紹介映像も、番組を盛り上げる効果があったようだ。
本体の「瀬戸内しまなみ海道」そのものも、五月一日の開通以来、順調に利用車両数が増えて、愛媛県に新時代の到来を告げるかに思えた。

 

 
 


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