スバラシキセカイリョコウ
著者
佐藤遼子/著
出版社
扶桑社
定価
本体価格 1143円+税
第一刷発行
2002/11
ISBN 4-594-03766-6
劇薬としての紀行! 15歳の少女。世界21カ国。彷徨。いや、敗走!?


■目次
プロヴァンス(16歳);ニューヨーク(17歳);東京(18歳);バンコク(18歳);ロンドン(19歳);ウィーン(19歳);アムステルダム(19歳)

■要旨
プロヴァンス、ニューヨーク、東京、バンコク、ロンドン、ウィーン、アムステルダム…。15歳の少女が5年にわたり世界を疾走しながら、小さな身体に刻みつけた刻印の数々。彼女はなぜ日本を飛び出したのか?そして、いったい何を見つけたのか。

 

扶桑社・角川書店による処女作共同プロデュース!

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前代未聞ですが、2社がまったくの新人の処女作を同時発売して共同プロデュースします。扶桑社からは紀行文「スバラシキセカイリョコウ」、角川書店からは小説「デ・ラ・シ・ネ」。著者は、24歳の女性。家族や社会と折り合いをつけられず15歳で渡仏。以後、路上でのアコーディオン演奏や絵画モデルをつとめながら、5年にわたり世界を彷徨しました。訪ねた国は、フランス、ギリシャ、モロッコ、ケニア、エジプト、ニューヨーク、タイ、ベトナム、ラオス、シンガポールマレーシア中国、インド、インドネシア、イギリス、オーストリア、オランダなど21カ国。本書は、その中からの7都市の紀行。10代の傷つきがちな心象風景が、狂気じみた色彩と独特の筆致で都市の雑踏に浮かびます。まさに、出版界に突如たんじょうした「21世紀の深夜特急」!


佐藤遼子(さとう・りょうこ)

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1978年埼玉県主まれ。中学を卒業と同時に異国(海外)に渡り、十代を世界各国を巡りながら過ごす。今は一日のほとんどを(愛猫)のダダとともに執筆やイラスト、アコーディオンに費やす日々。
2002年秋、扶桑杜より紀行文「スバラシキセカイリョコウ」、角川書店より小説「デ・ラ・シ・ネ」と処女作を2冊同時に発表する。
また、その制作過程は、ドキュメンタリー番組「ルビコン」(テレビ東京系)で30分にわたり放送される。

プロローグ

中この六月だった。
二時間目が終わった時、私は震えて職員室の扉を引いた。
担任の先生の机の前に立ち呆け、けれども、言葉が出てこなかった。
椅子に座ったままきょとんとした顔で私を見上げる先生に「どうした」と言われても、私はなぜなのかわからなかった。
どうしたのか、自分でもわからなかった。
ただ、「ダメです」と、ポロンと言葉を落としていた。
顎を上げた頬から伝う涙も一緒に落ちて床に砕けた。
「ダメです」
そして私は、職員室を出て上履きを脱ぎ、一人下校道をたどった。
フェンス越しに見る校舎。
体育館にグラウンド。陽炎のように透明に揺れて見える校舎は、まるで空々しい巨大な病院のようだった。
サヨナラ。
私は戻らないよ。
父と母が「どうして学校に行かないんだ。恥ずかしくて近所を歩けない」と言うので、 私は四畳半の部屋に隠れた。
閉ざされた力ーテンに身をかくす私が、私はますます恥ずかしく、もう誰にも会うことはできなかった。
真夜中も一番近くのコンビニには同級生がよくたまっているので、ちょっと足を延ばして遠くのローソンまで行かなくてはいけない。
誰かに会わないかとビクビクしていた私は、顔の見えない夜に目覚める。
真夜中スケッチブックに向かって絵を描いている時が、唯一の自分の時間だった。
時折、父が突然優しく、なだめるように私を夜のドライブに連れてゆく。
それでも、はしゃいでいるのもつかの間で、やはり「明日は学校に行くよな」という諭すような言葉が続くのだ。
私は無口に、またはそれに準ずる生返事をしていると、しだいに声を荒げ、事態が紛糾してしまう。
そして、家につく頃には、よく事故に遭わなかったなという傍若無人な運転になっているのだった。
私は泣く。
誰にも必要とされることなく、どこにも居場所さえも許されていないのだということだけは、毎日寝てもさめても、確固たる現実となって私を追い詰めていた。
私が毎夜、スケッチブックに描いていた絵は、モノクロフィルムの物語のワンシーンだった。
私はスケッチブックの中にだけ生きていた。
私を救う物語たちを乞うように、愛でるように、私は描き、生きていた。
それでも、担任の先生は、週に一度は会いにきて、夕暮れ過ぎの五丁目公園に私を連れ出す。
私は先生に顔を見られないようにずっと下を向いていた。
何回となくそんなことが続いて、先生はこのままじゃ埒が明かないと思ったのか、本当に私の行く末を考えてのことだったのかわからなかったが、突然力強くこう言った。
「アメリカヘ行け。日本はおまえには狭すぎるんだ」
私はすぐさまその言葉を信じて飛びつくほどの、素直さと愛嬌はもはやもちあわせていなかった。
「そうだ、そのほうがいい!お前なら絶対だ!」
と、先生は一人で合点していた。先生、外国になんて行ったことがないくせに。

(本文P.9〜11 より引用)

 
 


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