成功する人の「甘え力」
著者
和田秀樹/著
出版社
集英社インターナショナル
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2003/07
ISBN 4-7976-7083-5

 
「甘え」は日本の文化だ!仕事に、恋愛に効く 「甘えの心理学」
 

成功のカギは「甘え力」にある。あなたを成功に導く「甘え力」のヒミツを伝授。ビジネス、恋愛など、具体例を交えながら、「甘えの心理学」を詳しく解説。



プロローグ「甘え力」とは?


甘えや依存は
本当に悪いものなのか


私たちは「甘え」や「依存」という言葉を聞くと、なにか悪いもののようなイメージでこれをとらえる傾向があります。
とくに最近は日本経済や日本人を語るとき、もたれ合いや甘えなどの考え方がなにか否定的なニュアンスで使われることが多くなりました。
たとえば、個人の生き方として、いまは大企業や官公庁に就職するより、自立して起業家としての道を進むことのほうが立派だと考えられる傾向があります。
起業家精神を持った「自立した人」が社会人の理想モデルで、大企業志向、安定志向を持っている人は「甘えたやつ」だと見られます。
多少能力を持っていても、まわりに依存したいという気持ちを持っている人たちは、「望まれないだめな人間」だというわけです。
政治家や会杜のリーダーも同じで、人を頼りにする姿勢は許されなくなりました。
最近の会社は合議制の経営が少なくなり、CEOなど最高経営責任者による迅速な経営判断によって動くことが求められるようになりました。
それはすなわち「失敗すればすべてリーダーの責任」ということを意味していますが、従来のように「みんなで相談して決めたこと」という形での責任分散がこんなところでも許されなくなっているのです。
バブル経済が崩壊するまでの日本では、まわりに甘えたり依存したりすることは少なくとも一つの生き方として容認されていました。
それは建前と本音との二つのルールで動く、日本の文化に根づくものだといえるのかもしれません。
建前のルールでは、人はだれでも自分の責任で動くことが求められているのはいまも昔も変わりません。
ところが、日本の社会には、裏のルールに基づく「本当はだめだけどここまでなら許す」というおめこぼしのようなものがあるので、なんでもかんでも自分の責任で行動する必要はなく、「寄らば大樹の陰」でまわりに頼りながら幸せに暮らすのも立派な生き方だと考えられていたのです。
自立をよしとする最近の風潮でいうと、こうした甘えや依存のようなものはすべて悪いものになってしまいます。
とはいえ、これが私たちにとっていいものか悪いものかは、どちらが正しいとは一概に判断できない、なかなか難しい問題ではないでしょうか。
対人関係能力の差が人生を左右するまわりに迷惑をかけず自立して生きるというのは、たしかにだれもが望む理想的な生き方です。
しかし、いつの時代もどこの場所でもそうですが、人は一人では生きてはいけません。なにをするにもまわりと関わり合う場面はあるし、まして困難な目標を達成しようと思ったらまわりからの協力は不可欠です。
そして、このように人聞関係を円滑にし、まわりから多大なサポートを得るには、甘えや依存を上手に利用しなければならないこともあるように思います。
昭和の大物政治家、田中角栄は、ロッキード事件で逮捕された後も政界に大きな影響力を持ち続けました。
意外なことに逮捕後も彼を擁護する人たちは多く、それは地元の支持者にとどまらず、たとえば政治家や財界人、官僚などにも多く見られました。
マスコミによる強烈なバッシングを受けている最中も、一審と二審で有罪判決を受けてからもそれは同じで、病に倒れるまで多くの人に擁護されていた彼の立場は揺らぐことはありませんでした。
最近では、政財界や官僚に強い影響力を持っていた鈴木宗男という政治家が利権疑惑で逮捕後、同じように世聞から強烈なバッシングを受けたことがありました。
その最中に彼を必死に守ろうとしたのは、同郷の後輩にして歌手の松山千春くらいで、行動を共にしてきた仲問からは見放され、強い影響力を持っていたはずの外務省からも本人にとって不利な情報のリークが相次ぐなど、政治生命は完全に断たれた形になっています。
このケースと比較してみると、田中角栄のそれがいかに不思議か、きわだって見えてきます。

(本文P.6〜8 より引用)


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