犬も猫舌 学校では教えることがない知識笑
著者
松尾 貴史 監修 五月女 ケイ子 絵
出版社
ワニブックス
定価
本体価格 952円+税
第一刷発行
2003/08
ISBN 4-8470-1517-7
 
バカな知識は脳にやさしい!
 

へ〜、ほ〜、マジで!?チワワはもともと「食用犬」だった!実は犬も猫舌?「オバケのQ太郎」連載初期は頭に毛が「10本」あった!?ビックリ知識100連発の、学校では教えることが出来ない知識の数々!!



序にかえて

戦前に比べると、現代の日本人一人あたりが得る情報量は、一説によると五千倍にもなっているという。
つい今しがたの話である。
居酒屋の、私が蛸しゃぶをつついている隣の席で、三十代のカップルが言語について知識を披渥し合っていた。
日本語が中国や朝鮮の影響をどのように受けたかという話から、トルコ語、ハンガリー語との比較まで、非常に広範な教養をお持ちのようで、しかし聴かないふりをしながら聴いていると、「朝鮮語って『つんだらつんだらつんだらら』って感じじゃん」「北と南じゃ違うつしょ」「だけど日本語は『たららららら、たらららら』、なんだよなあ」「○○○って禁止用語だよね」と、高尚なテーマであるにも拘らず、すこぶる感覚的というか、川藤氏の野球解説というか、いたって格好がつかないのだ。
人はなぜ、知りもしない事を話したがり、役に立たない情報や知識を得ようとするのか。
そういう意味合いで、私の病状は深刻である。
たまさかある事柄について話題が出たときに、そのテーマに関して、自分が知っている知識の七割以上をその場で吐き出さないと、のどが渇き、舌なめずりが止まらなくなり、頬は紅潮し、眼の見当は狂い、指先は小刻みに震え、尿道が焼け付くように痛み、血沸き、肉踊り、肛門跳ね回るのだ。
そんな事になるのは「在庫」があるからで、「仕入れ」なければよいという事はわかりきっているけれども、「知りたい知りたい」という欲ごう求、というより「業」とも言える衝動が突き上げてきてしまう。
それも、学問の王道を行くような理論や体系だった教養などには微塵も興味を覚えず、「大いなる歴史の残りカス」、「意味があるようでいて実はまったくない偶然のいたずら」、「業績とは無関係な偉人たちの性癖」といった、まさにバグやノイズのような欠片を追い求め、漁り、同時に垂れ流し続けるのである。
「戦前に比べると、現代の日本人一人あたりが得る情報量は、一説によると五千倍にもなっているという」
きっかけとして持ち出したこのデータですら、まったくもって役立たずな情報ではないか。
それを知ったからといって、戦前の日本人と自分を比べて優越感に浸り悦に入る事は難しいだろう。
ところが、何かのおりに、「情報化社会だからね」などという発言を他人がしようものなら、即座に「五千倍だよ、五千倍」と得意げに語る事は目に見えている。
もしあなたが初めてのデートで知的ぶりたいと思ったとき、もしあなたが居酒屋で後輩に尊敬されたいと思ったとき、もしあなたがワイドショーのコメンテーターとしてITに関して気の利いたコメントを言いたくても思いつかないときに、こんなガラクタの情報でも役に立たせる事はできるのである。
昔の人がーで生きられたことを私たちは4999も余分に仕入れているのだとしたら、その中の「相性の良い雑学」を、せいぜいおもちゃにしようではないか。
アメリカのアポロ11号が月面の「静かの海」に着陸して人類が初めて月面に降り立った日であり、日本で始めて修学旅行が行われた日であり、緒形拳と松坂慶子と間寛平の誕生日であり、Tシャツの日であり、コロンビアがスペインから独立した日であり、平成14年までは海の日であり、郵政省がファクシミリを東名阪で伝送を開始した日であり、日本マクドナルドが勝手に制定したハンバーガーの日である、7月20日
環七沿いのバー・クローズドにて。

松尾貴史

(本文P.2〜5 より引用)


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