独房に拘置された22日間を描いた、中島らもの復活作。不良囚人だった著者が、次第に事件を振り返り、自分自身を見つめなおしていく心の変化を描く。
シャ力はボダイジュの下に結界(バリアー)を張り巡らせました。瞑想の妨げとなる入、鳥獣などを退けるためです。 このために森の鳥や獣たちはバリアーにコツンと頭をぶつけて、そこを避けて通るようになりました。 おかげでシャ力の瞑想は進み、ついには「無は無い」という境地に達するまでになりました。 ところがある日、ゴマを三粒持ったリスが、ピョンピョンとバリアーの中に入ってきました。 シャ力は不思議を覚えて、 「汝は、如何にしてこのバリアーを抜けて来たのか」 と尋ねました。 リスはピョコンとお辞儀をして言いました。 「このバリアーは、心外に張られたものではなく、御身の心内に張られたものです。 だから私はこうやって来られたのです」 シャ力は笑ってリスの手から三粒のゴマを受け取りました。 そして、その一粒を口に含まみ、もう一粒をリスに与えました。 「この最後の一粒は地に播くとしよう。そして芽吹き、実を結ぶのを一緒に見守ろう」 真夏の白い昼下がりのことでしたー。 雑音で目が覚めた。 誰かが家の中に入ってきているらしい。 それも一人ではない。複数の人間の気配がする。 どうせ訪問販売か宗教の勧誘だろう。 応対は妻に任せておれは再び眠りの世界に戻ろう とした。しかし彼らはあまりにしつこく騒々しい。 家の中にまで入ってくるとは無礼な奴らだ。 おれは目を閉じたまま怒鳴った。 「誰ですかっ!?」 ヒゲ面の男がおれのベッドをのぞき込んだ。 「何者だ」 「厚生労働省麻薬取締部だ」 おれは血圧が高いので寝起きはいい方だ。 頭はすぐ冴える。 「免状を見せろ」 ヒゲ面の男はジャンパーから免許証のようなものを出してかざした。 確かに麻薬取締官、通称マトリの免状だった。名前は松原とある。 「あんたはコンバットという雑誌を見たことがあるか」 「いや、ない」 「あれの広告面には、ありとあらゆる武器の宣伝がのっている。 ケーサツ官の手帳もマトリの手帳も通販している。 あんたが本物のマトリ、松原であるという事実を同定する証拠がどこにある。本局に電話しても意味がないだろう」 「それは……」
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