ヤンキー母校に生きる
著者
義家 弘介 著
出版社
文藝春秋
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2003/10
ISBN 4-16-365370-8
 
ここなら、誰だってやり直せる!
 

「おまえらは、俺の夢だ!」全国から中退、不登校生徒を受け入れている北星余市高校に、元ツッパリの卒業生が教師として戻ってきた・・・。TBS系金曜ドラマ「ヤンキー母校に帰る」のモデルとなった教師、その情熱の記録のすべて!!

学級崩壊、不登校、いじめなど、現在、教育は深刻な問題を数多く抱えています。そこで最も苦しんでいるのは渦中の生徒自身でしょう。事実、毎年多くの中退者が出ていることが報じられています。
 北海道の北星学園余市高等学校では一九八八年からこうした中退者を積極的に受け入れてきました。著者である義家先生自身、地元の高校を退学処分となった後、同校の門を叩いた経歴の持ち主です。本書は彼が教師として母校に戻り、最初の担任クラスを卒業させるまでの、文字通り血と汗と涙にまみれた奮闘記です。教育への信頼と希望を取り戻させる一冊。


私は罪人である。
これまでたくさんのものに裁かれながら生きてきた。
しかしそれは過ちに対する当然の報いを受けたに過ぎない。
犯してしまった罪は、たとえ裁かれようとも、本当の意味で償うことなど決してできないのだ。
だから私はここにいる。
罪深き私でも、自分の全てをかけて恩返しすることくらいなら、きっとできるから……。

義家弘介

ヤンキー母校に生きる  目次

力ーニバル

ワハハハハ。
ホカクー。
ドッボーン!
キャハハ。
シンジラレネー……。

七月某日。
天気くもり。朝の予報では雨だったこの日の午後、肌寒さを感じながら学校近くの砂浜に総勢百名を超える高校生が集まった。
『腹いっぱい焼肉を食べよう!もちろんタダだ!』
生徒会のメンバーによって全校生に呼びかけられたこの祭りは瞬く間に広がり、私の予想をはるかに上回る人数の生徒が、大挙して浜に押し寄せた。
事の発端は、二ヶ月ほど前にさかのぼる。
たまたま知り合いになった、食肉のコンサルタントをしている方と生徒たちの生活について話したことがあった。
「自分もよく、生徒たちと屋外でバーベキューをするんですが、あいつら本当によく食うんですよ。一人五百グラムの計算で買っていっても、あっという間になくなってしまうんですよね」
先日行った部活の生徒を集めての焼肉パーティーのときの話である。
すると、
「そうですか。それなら今度、こちらで最高の肉を用意しましょう。そして生徒たちに腹いっぱい食べさせてやりましょう。私も若者と思いっきり遊びたいっていつも思っているんです」
その方は少年のような顔をして私に提案した。
「もし実現したら生徒たちは喜ぶと思います。でもなんだか、悪いので……」
私は遠慮がちにお断りしようとした。
「私は若者が大好きなんです。どうか協力させてくれませんか?学校以外の場所でも心から応援している大人がいるんだってわかってもらう、こんな大人もいるんだってわかってもらう、それだけでいいんです」
でも……。
なおも遠慮がちな私であったが、その方の熱心な思いに押されるように、一学期中に実現させることをお約束した。
そして二ヶ月。
ついにその日がやってきた。
私は朝早く起きて、このまま雨が降らないことを祈りながら、協力してくださる食肉関係の方々と共に、バーベキューパーティーの準備に取り掛かった。浜には、今まで見たこともないような上質な牛肉のブロックが、大量に運ばれていた。
『せっかく夏の海なんだから』、という生徒たちの声に押されて、大枚をはたいてスイカを十個も購入し、定番の『スイカ割り』に備えながら、準備万端で生徒たちの到着を待った。
正午を知らせるサイレンがこだました。
私たちの待つ砂浜に一人、また一人と続々と生徒たちが集結してきた。
いつも元気全開の奴、お祭りのときだけはしゃぐ奴、なんとなく付き合いで浜まで来た奴、食べ物の話には目がない奴、学校ではいつもおとなしく下ばかり向い
てる奴……たくさんの生徒たちが休日の砂浜に集結した。
「おースゲー!こんな肉はじめてみた」
「なにこれ?霜降りって奴じゃない?」
「よだれがでてきたよ。はやく食わしてよ」
「なに言ってんだよ!まずお礼を言うのが先だろう!」
「ヨシイエありがとう」

(本文P.7〜9 より引用)


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