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 逆転 リベンジ
著者
牛島 信 著
出版社
産経新聞社
定価
本体価格 1429円+税
第一刷発行
2004/02
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ISBN 4-594-04531-6
 
定年間近い“団塊の世代”を切り捨てようとする企業と、起死回生の勝負に賭ける男たち−国際派弁護士・牛島信氏が産経新聞に連載した好評の企業法律短編集が本になり、「逆転(リベンジ)」のタイトルで2月28日、全国で発売されました。
 

本の要約

子会社へ追いやられた男が、親会社の不祥事で会社整理に乗り込み、かつての上司と立場を変える表題の「逆転」、リストラを迫る会社に法律を武器に反乱を起こす「勇退」、社長解任動議に揺れる企業の皮肉な末路を描く「攻撃」−など、切れ味鋭い17編を掲載しています。

 法律事務所を主宰、法律と企業を知り尽くし、自身が団塊の世代でもある牛島氏が、同世代の企業戦士たちに贈るビジネス・ロー・ノベルです。



オススメな本 内容抜粋

杜長は取締役会で決める、取締役は株主が集まって選ぶ。
だから、そもそも株式会社は株主のものなのだそうだ。
しかし、誰も本気でそんなことを信じてはいない。
取締役は社長が選ぶ、取締役会は社長の独演会、そして会社は社長のもの。
それが現実の姿ではないのか。
疑う者は誰でもいい、サラリーマンに聞いてみたらいい。
「株主?ああ、株主さんは会社の外の方でしょう。ウチの方は、社長の下で皆しっかり働かされてますから」
そういう答えが返ってくるはずだ。
平成十四年五月二十三日、エレクトロ貿易株式会杜の取締役会が、東京・南青山にある本杜ビル十四階の会議室で開かれていた。
社長の大橋興次が巨大なテーブルの片側に座って、次々と議事をさばいている。
大橋のほかに声を出す者はいなかった。
エレクトロ貿易は東証一部上場の商杜として、多少は世間に知られている。
昔は石炭を掘る会杜だったのを、今の杜長の大橋興次が電子部品の専門商杜にすっかり作り替えてしまったのだ。
社名も常磐石炭鉱業所という名前から今の横文字になって久しい。
従業員五百人、売り上げは年に一千億円足らず。
だが利益は毎年コンスタントに五十億円以上あげていた。
流行りの外国人株主も多い。
大橋の声が一段と高くなった。
「最後に、来月の株主総会で取締役を改選することになるから、そのことについて諮ります。今回は大沢君に辞めてもらって、代わりに営業第三部長の山仲君を入れようと思います。以上」
そこまで大橋が喋った時、突然、テーブルの反対側に座った二人の男が顔を見合わせて頷き合った。
攻撃の合図だった。
二人は椅子を鳴らして同時に立ち上がると、
「代表取締役杜長の解任動議を提出します」
と、声をそろえて叫んだ。
二人の動議を待ち構えていたように、大橋のすぐ左手側に席を占めている副社長の三田尻が声を震わせながら、
「ただいま代表取締役杜長を解任する動議が出ましたので、社長は議長を続けることができません。ですから、以後、私が議長を務めます」
さらに大きく息を吸い込んで、
「社長の退席を求めます。社長本人は特別利害関係人ですから、審議に参加することが許 されません」
と一気に喋った。
大橋興次は三十八歳で取締役に抜擢され、四十五歳で社長になった。
今年で七十八歳になる。
その間の四十年、文字通り会社の事業の総替えをなし遂げたのだ。
(私はこの会杜を事実上創業したといっていい。だから、自分は死ぬまで会社の将来に責任がある。人の命には限りがある。しかし、会社の命には限りがあってはならない。会社は個人と違ってゴーイング・コンサーン、永遠の命を持つものなのだ)
大橋はそう強く自覚して、六十歳を過ぎてからは後継者の育成を自分に課してきた。
だから一人息子の洋太郎を会杜に入れた。
大橋が六十歳の時のことだ。
当時二十七歳だった洋太郎はオペラのテノール歌手になるのだと言ってイタリアにいた。
それを無理やり日本に連れ戻してエレクトロ貿易に入れた。
会杜のためだった。
その洋太郎も今では取締役杜長室長になって大橋を助けてくれている。
大橋は、今度の株主総会を最後に、杜長から退くつもりだった。
後継はもちろん息子の洋太郎だった。
マスコミにもそう発表していた。
杜内、中でも取締役レベルに反発する空気のあることは大橋も承知していた。
もともと大橋は創業者でもその家系でもなかったし、持ち株といってもサラリーマン社長の域を越えていない。
しかし、結局のところ、いざ実際の動きとなると取締役たちからは愚痴とため息が出るばかりだった。
エレクトロ貿易の取締役たちは、大橋と年齢の近い古参の取締役たちとその下の若い取締役との二つのグループに分かれていて、これまでも大橋はその二つをうまく操縦してきていたのだ。
だが、企業を取り巻く環境は、大橋やエレクトロ貿易の取締役たちの知らないところで大きく動いていた。
洋太郎が新社長に就任するという新聞辞令の出たすぐ後、ニューヨークの買収ファンドが動きだした。
ファンドの日本の代表というアメリカ人とアシスタントの日本人が橋渡し役となり、取締役の二つのグループを説得して反大橋連合を作り上げた。
年嵩の取締役たちは洋太郎に飛び越される立場だから、洋太郎の杜長就任の次に来るものが自分たちの首であると恐れていたし、若い取締役たちにしてみれぼ、洋太郎への世襲を許すことなどできないと感じていたのだ。
これまで大橋を支えてきたメーンの銀行に代わってファンドが資金を出し、三田尻以下の取締役たちが大橋抜きの会社を経営する計画だった。
賛成する取締役たちにはストック・オプションが用意されるので、巨額の報酬が転がり込むことになるという話も出ていた。
(本文P. 6〜9より引用)

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