BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 野ブタ。をプロデュース
著者
白岩玄 /〔著〕
出版社
河出書房新社
定価
税込価格 1050円
第一刷発行
2004/11
e-honからご注文 画像
ISBN 4-309-01683-9
 
いじめられっ子転校生(キモいほどおどおどしたデブ)を人気者にすべく、オレはプロデューサーを買って出た。第41回文藝賞受賞作。
 
野ブタ。をプロデュース  白岩玄 /〔著〕

本の要約
いじめられっ子転校生(キモチ悪いほどおどおどしたデブ)を人気者にすべく、オレはプロデューサーを買って出た! 「『セカチュウ』で泣いてる場合ではない、『野ブタ。』を読んで笑いなさい」と斉藤美奈子氏絶賛、第41回文藝賞受賞作!

白岩 玄 (シライワ ゲン)

1983年京都市生まれ。専門学校生。『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞受賞。



オススメな本 内容抜粋

辻ちゃんと加護ちゃんが卒業らしい。
まだ眠たい目で食卓に座ってミルクティーをすする俺の位置からは、父親がリフォーム番組に触発されてつくったくつろぎスペースとやらにあるテレビが遠くに、ほぼ真横を向いて、画面が三センチほどしか見えないのだが、加護ちゃんがあの可愛らしい声で今後の抱負らしきことを語っているのが聞こえたので、まあ多分卒業なんだろう。
また卒業。いつも突然卒業する彼女たち。
ファンの「え〜っ」と木霊する声も聞こえている。
日本人は、なぜ何か信じられないことが起こったとき、口をついて出てくる最初の言葉が「え〜っ」なのだろう。俺はふとそう思ってミルクティーを置き、いろいろ他を試してみたがどれもしっくり来ず、やはりそれしかないということを納得した。
ミルクティーのカップを口から離すと、飲み方がヘタクソなのか薄茶色の滴がカップをつたっていった。
英国紳士を装いたい俺は親指でそれを拭き取ると、食卓の上に置かれた、マーガリンを塗ってもらえなくて寂しそうにしている食パンに目を移した。
俺に かかる放火殺人死体遺棄の容疑。いつも通り焼いてはみたものの、マーガリンが食卓に出ていなかったので食べる気が失せたため、放置されたかわいそうな奴。
振りかえればすぐ後ろに冷蔵庫があるのだが、俺の場合、一旦冷めてしまった気持ちは絶対再点火しない。
というか冷蔵庫を開けたときに必要なものを全部出したと思ったのに、ものすごく重要な奴を出し忘れてしまった自分に何だか腹が立っていた。
眠い。このミルクティーというヤツが集中力を高めるというのは本当なのだろうか。
紅茶をすすると、どうもまったりしてしまって何もする気がしないのだが。ひょっとするとコイツは、集中力を高めようと意気込む人にだけ効果があるのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
ーつ大きな欠伸をして、またカップを口につけると、柱時計をぼんやり眺めた。七時五十七分。
あと三分で学校へ行く用意を始めなければ遅刻は免れないだろう。
しかししかし今日の俺、まだまだ全然スイッチが入らない。
髪も歯も服も、うっすら生えたヒゲも、全てまだ起き抜けのまま。
全くもって腑抜けた朝だ。
いつもなら、そう、いつもならこんな醜態を見せる俺ではない。
ちゃんと顔を洗って、寝ぐせも直して、歯も磨いて、服も着替えて、さあどっからでも私を見て、という隙のない状態で家族の前に姿を現す。
パンを見捨てたりなんていう非道で、地球にも鳩にも優しくないことはしないし、食卓からはどうにも見えないテレビを点けっぱなしにしたりもしない。
八時十五分にはすっかり準備を済ませ、しっかり靴ひもを締め、ハッキリ「行ってきます」と親に言い、きっちり家を出る素晴らしい高校生だ。けれど今朝は違う。父親は出張、母親もパートの同僚との一泊旅行で二人とも留守の今朝は、そんな素晴らしい高校生を演じる必要はない。まったりぐったりの許される、俺の俺による俺のための朝なのだ。
ミルクティーが底をつき、同時に我が家の時計が八時の鐘を打って、まったりタイム終了を知らせた。……あわてるな、まだロスタイムがあるじゃないか。何が起こるわけでもない、何のドラマも待ってないロスタイムが。俺は自分にそう言い聞かせると、カラになったカップに牛乳を注いでミルクティーを装わせ、まったりタイム延長を試みた。
たっぷり三分のロスタイムが無駄に過ぎ、俺はしぶしぶ立ちあがって牛乳の残るカップと、結局手付かずのパンを流しに持って行くと、カップには蛇口をひねって水を溜め、パンには証拠隠滅のためにもゴミ箱という奈落の底に落ちてもらった。
さてと。今日も俺をつくっていかなくては。
俺は超高速でシャワーを浴びて体をキレイにすると、薄く生えたヒゲを丁寧に剃ってさわやか感を取り戻した。

(本文P. 3〜5より引用)



▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <BLANKでご覧になれます

e-honからご注文 画像
BOOKSルーエ TOPへリンク


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.