どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、彼女らはいつも洗練されたやりかたで、人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。写真と文章で綴る、猫たちとの暮らし。

［目次］
平成十二年四月〜平成十四年四月（拙宅の猫たち；横着者が黒豆を；拙宅の守旧派；ゲンゾーの思惑　ほか）；平成十四年八月〜平成十六年四月（続・拙宅の猫たち；器用の夕べ；イラキアタック・時計の水漬；死闘　ほか）

…………　拙宅の猫たち

自分は猫が好ぎである。
どれくらい好きかというと、例えば往来をしていて、駐車中の車の下に猫がいるのを見つけたとする。
と、もういけない。
その場にかがみ込み、見知らぬ通りすがりの猫に、文字通り字義通りの猫撫声で、可愛いな、かしこいな、と語りかけ飽かぬという体たらくで、まったくもって浅ましいことこのうえない、というか、このことは自分の社会的評価にも影響する。
というのは、まあそうだろう、それまで、世の中に面白いことなどなにひとつない、とでも言いたげな渋面をつくって歩いていたおっさんが突如として地面に手を突ぎ膝をつき、可愛いなかしこいな、などと阿呆のごとき声を出すのである。これを見ていた往来のひとが自分のことを、おかしげな人、ファンシーな人と評価・判断するであろうことは容易に想像せられる。
また、そうしていつまでも通りすがりの猫と遊んでいて飽かぬものだから、人との何処で何時という約束等を守れぬこともしばしばで、がために重要なお客をしくじって年中貧乏をしているため、例えば市場をぶらついていて、うわっ、旨そうな、メイタ蝶だな、今晩はこれでちょっと一杯やってこましたろかしらん、なんてなことを思ったところで、ほら、そうやって貧乏して御座いますでしょ、すぐさま、一枚２００ｇで９８０円ちゅうのは痛いなあ、ぎついなあ、という慨嘆が口をつぎ、結句これを諦める、なんてなこともこれまたしばしばなのであり、つまり、通りすがりの猫が可愛いせいで自分はメイタ蝶を食えぬのだ、ということもでぎる。
と、自分がこんなことを言うと直きに、「はは。なにを吐かしやがる、遊冶郎が。自ら
の怠惰・怠慢を棚に上げて、猫のせいで仕事がでぎずに貧乏をしているだと？ふざけるな。おまえが貧乏をしているのは猫のせいでもなんでもない、仕事を頼む人はたくさんあるのに、いやあちょっとこのところ眠くて、とか、雨が降るとなんとなく身体だるいのです、などとそれこそ猫のようなことを言って断ってばかりいるからじゃないか。それをぽ猫のせいにするなんてひどいとおもうわ。そんなことを言っていると死後、裁ぎにあいますよ」なんてなことをいう人があるがそうでない。
というか、まあ、一部当たっていなくもないのだけれども、彼が見落としている事実がひとつある、というのは、泊分は往来の猫にかまけているばかりではなく、拙宅に住まいするゲンゾーとココアという猫にもかまけている、という事実である。
はき、と申し上げる。
拙宅には、ゲンゾーとココアという猫がいる。そしてその猫たるや、自分が通常の人間に比して少しくファンシーであるのと同程度にファンシーで、まあ、自分がなぜ彼／彼女らをファンシーだと判断したか、というと、これまで自分が見てぎた猫たちに比して変わっているから、という専ら自らの狭い経験に拠るものであり、ことによると彼／彼女らは別段、ファンシーでもなんでもなく、そんなの、例えば、彼／彼女らがおっそろしい大食いで、自分がメイタ蝶を買えぬのは彼／彼女らの食費が莫大であるから、などということは猫だったら普通だよ、ということだってあるかもしれず、それはそれで慶賀に値することで、二れから自分麻、二の場な借り、ココァとゲソゾー、そしてこれまで自分が交際してぎた猫達の行状、交友をここに記すことによって、果たしてココア、ゲンゾーがファンシーか否かについての読者諸賢の判断を仰ぎたいと思う。
しばらくの間、おつき合い願いたい。