メリーが死んだ
今日はわたしの誕生日。ずいぶん大きくなった。
父と母に感謝しなくてはいけないと思う。
もっともっと、いい成績をとって、丈夫になって、悲しい思いをさせないようにす
るんだ。そのためにも、この青春の始まりを、悔いのないように大切にしたい。
あさってからキャンプに行く。がんばって勉強をやっちゃわにゃ安心して行けない
もん。
フレー、フレー、亜也ちゃん。
メリーが、隣の猛犬タイガーに首をくい破られて死んだ。
体の小さなメリーが、大きいタイガーに親しみの情をこめて、短いシッポをピンピ
ンふって近づいて行った。
「メリー、だめっ!こっちへおいで」と必死に叫んだのに……。
何も言えずに死んじゃったメリー、悔しかっただろう。
犬に生まれてこなきゃあこ
んなに早く死ななかったろうに。
メリー、どこかで幸せになって!
新居完成。二階の東側の広い部屋が、わたしと妹の城。天井は白。壁は茶色の化粧
板。窓から見る外の景色が、いつもと違うように見える。自分の部屋があることはう
れしいけど、広くてさみしい感じもする。こんばん眠れるかな。
新しい気分で出発!
一 服装は、Tシャツとズボン(活動しやすいから)。
二 日課としてやることー庭の水まき。草とり。一本だけ植えておいたトマトの
葉の裏に、虫がいないかを見る。菊の葉のあぶらむしも見る。いたらすぐに退治
する。
三 勉強をおろそかにしないこと。
四 その他、毎日のできごとを日記にきちんとつける。
以上、申しつける。
わたしの家族
父 四十一歳。ちょっぴり気性が激しいけど、優しい。
母 四十歳。尊敬しているが、ピシャッと急所をつくのでこわい。
私 十四歳。思春期の始まり。難しい年ごろ。一言で言えば、泣き虫。感情のかた
まり人間。単純ですぐ怒り、すぐ笑う。
妹 十二歳。この妹には、勉強でも性格でもライバル意識を持っている。と言って
もこのごろはやや押され気味。
弟 十一歳。これがくせ者。こわいんだよなあ。弟のくせして時には兄貴に化ける。
コロ(犬)の育ての親でもある。
弟 十歳。想像力豊かであるが、軽はずみなところあり。
妹 二歳。母ゆずりのちぢれ毛と、父ゆずりの顔(特に目、八時二十分)。とても可愛い。
15歳 ─ 忍び寄る病魔
兆しこのごろ何だかやせてきた。
山ほどある宿題や自由研究で、食事を抜きにしたせいかな?
思っても実行できなくて悩む。自分を責めながらもはかどらない。エネルギーが消
耗するばかり。もう少し太りたいなあ。
明日からは、計画表をむだにしないように行動しよう。
雨がしとしと降っている。重いカバンと手さげ、おまけに傘を差しての登校はきらい。
やだなあ、と思ったとたん、家から百メートルくらい先の小石の敷いてある細い道
で、突然ひざがガクッとなってずっこけた。
あごをひどくぶった。そっとさわってみると、ベトッと血がついた。散らかったカ
バンや傘を拾って、まわれ右して家へ帰った。
奥の方から母が、
「忘れ物したの?早く行かんと遅刻するよ」
と言いながら、玄関まで出てきた。
「どうしたの?」
でも泣くだけで何も言えない。
母は、血だらけの顔を手早くタオルでふいてくれた。割れた傷口に砂がくいこんで
いた。
「これは医者へ行かにゃあいかんわ」
と言って急いで濡れた服を着替えさせてくれ、傷口にピタッと絆創膏をあて、車に
とび乗った。
麻酔もかけず、二針縫う。自分がドジだから、痛くても歯をくいしばって我慢した。
それより、急に仕事を休ませてしまったお母さん、ごめんなさい。
運動神経が鈍いから手が前にでなかったのかと、痛むあごを鏡で見ながら思った。
でも、あごの裏でよかった。まだ嫁入り前の女の子だから、見えるところに傷が残
ったらお先まっくら。
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