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 ブレーキ
著者
山田悠介/著
出版社
角川書店
定価
税込価格 1050円
第一刷発行
2005/07
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ISBN 4-04-873623-X
 
ブレーキを踏むと囚われた幼なじみが処刑される。彼女を救うためには、20キロの死のロードを走りきらなければならない!『ライヴ』に続く、山田悠介のノンストップ・サバイバル・ノヴェル。
 

本の要約

『ライヴ』に続く、山田悠介のノンストップ・サバイバル・ノヴェル!ブレーキを踏むと囚われた幼なじみが処刑される。彼女を救うためには、20キロの死のロードを走りきらなければならない・・・。「ビンゴ」「サッカー」「ババ抜き」「ゴルフ」「ブレーキ」。5つの生命をかけた運命のデス・ゲームが始まった!!



オススメな本 内容抜粋

グニャリ。
震えていた右手に生ぬるいぬめりが広がる。

午前九時を告げる鐘が、けたたましく鳴り響いた。はっと目が覚めると、てのひらにじっと
りとした汗を握りしめている。
十五日の朝を迎えていた。
「本波力!」
看守の厳しい声が遠くの方から耳に届いた瞬間、正哉は背筋をピンと張った。間もなくこの
独房の扉も開かれ、午前九時半になれば、一つ目の玉が看守長の口から発表されているだろう。
「はい!」
先程の人間が、独房の中から出たようだ。「今日の番号は十一番だ!すみやかにつけなさ
い」
?本波の返事の後、少々の間が置かれた。きっと黒で!1と書かれた白いゼッケンをつけている
のだろう。
「高橋賢一!」
「はい!」
隣の独房の扉が開き、看守とのやり取りが聞こえてきた。
次は自分だと理解した途端、心臓が激しく動き出した。正哉は胸に手をあてて、落ち着けと
自分に言い聞かす。が、まるで赤いものを見て狂った闘牛のように、心臓は激しく暴れまくっ
ていた。
「今日は十二番だ!すみやかにつけなさい」
「はい!」
そして、少々の間が置かれた後、正哉が入れられている独房の前で、コツコツという足音が
止まり、扉が開かれた。
「熊田正哉!」
布団の上で正座しながら、昨日から降り続いている大粒の雪を格子こしに見つめていた正哉
は、瞼を閉じ辺り一面に広がる銀白の世界を夢みた。
もうじき、その景色も夢ではなくなる。あと少しでここから抜け出せる。
真弓・・・・・・・。
「熊田正哉!聞こえないのか!返事をしろ!」
看守の怒声を背中に浴びて、正哉は大きく深呼吸をしてから立ち上がった。
「はい!」
「呼ばれたらすぐに返事をするんだ1廊下に出ろ!」
「はい!」
制帽を深く被り、制服を着こなした看守に返事をして、正哉は独房から薄暗い廊下に出た。
「今日の番号は十三番だ!すみやかにつけなさい」
「はい!」
今日は十三番かと心の中で眩き、正哉は看守からゼッケンを受け取ると、13と書かれたそれ
を囚人服の上に重ねてつけながら、ほんの小さくガッツポーズをとった。
もしかしたら、本当に免れるかもしれない。希望の光が、見えてきた。
「何をぐずぐずしている!列に並べ!」
「は、はい!」
その怒鳴り声に正哉は背筋をただして、両手を差し出した。ひんやりとした鉄の感触にビク
リと身震いする。看守は何も言わず、手錠をカチャリとはめこんだ。
自由を奪われた正哉は、既に廊下に並んでいる人間の列についた。後ろでは、なおも呼び出
しが続けられていた。十五番の人間が列の最後尾についたところで、まずはこの五人で部屋に?移動させられる。
正哉は覚悟を決めた。
「よし!」
そして小さく意気込み、顔を上げた。がその途端、拍子抜けしてしまった。前に立つ十二番
のゼッケンをつけた男が、顔をこちらに向けて不気味な笑みを浮かべていたのだ。
「なあ兄さん。あんた、今日で最後なんだって?」
正哉は看守に注意を払い、気づかれないように小さく頷いた。
「まあ」
「俺はな、今日が十一回目なんだ。今日セーフになって、来月セーフなら、俺もこっから抜け
出せる」
だからどうした俺に話しかけるな、と正哉は心の中でそう吐き捨てた。
「まあお互い頑張ろうや」
「おい!そこ!何をコソコソとやっている!」
後ろから飛んできた看守の声に正哉は敏感に反応し、背筋をピンとまっすぐに張った。前の
男は、何事もなかったかのように、正面に向き直っていた。
近づいてくるコツコツという足音に、正哉はまずいと舌打ちをした。
「おい!高橋!熊田!お前達、今何を話していた!」
「いえ!何も」
看守の目は見ずに、正哉はそう言い張った。こんな男のせいで、今までの苦労を水の泡にす
る訳にはいかなかった。どうしてもここから抜け出さなければならないのだ。
看守がなめ回すようにジロジロとこちらの顔を見ているのが目の端からうかがえたが、決し
て目を合わせなかった。
「次また妙な動きを見せたら、お前達はどうなるか分かっているな」
「はい!」
正哉がすぐに返事をしたのに対し、十二番の男は黙ったままだった。
「高橋!返事は!」
「はい」
十二番が気怠そうに返事をすると、看守は列の先頭に歩を進めた。どうやら今回は見逃して
くれそうだと安堵した、その矢先だった。看守が背中を向けて先頭に歩を進めているその隙を
ついて、十二番の男がまた振り向いたのだ。正哉はすぐに前を向けと顎をしゃくって指示した
のだが、十二番はなかなか動こうとしない。
前を向け!
思わず両手を突き出すと、手錠をかけられた手首に、食い込むような痛みが走った。十二番
は何の危機も感じていないように、ニヤリと微笑んで向き直った。



(本文P. 7〜11より引用)



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