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 ネクロポリス 上
著者
恩田 陸 著
出版社
朝日新聞社
定価
税込価格 1890円
第一刷発行
2005/10
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ISBN 4-02-250060-3
 
恩田ワールド めくるめく想像力でつづられる謎とファンタジーの結晶体!
 

本の要約

死者が現われる土地――V.ファーで起こる連続殺人、そして「ヒガン」という不可思議な儀式。東洋と西洋、過去と現在、生と死、あらゆる境界線が揺らぐ世界観を、いまだかつてないスケールで描き、ミステリーとファンタジーの融合を果たした恩田陸の最高傑作! 本屋大賞&吉川英治新人文学賞W受賞『夜のピクニック』、直木賞候補作『ユージニア』につづき、さらなる新境地に挑んだ渾身の1600枚!



オススメな本 内容抜粋

『夜のテーブル』のプロローグ


二人の女が、肌寒いテラスで空を見上げている。
天はまだティーンエイジマ。もう天は三+代半ばというところか。しかし、その面差しはど
ことなく似ている。
「見て、ツバメだわ」
少女の方がついと手を伸ばし、曇った空の片隅を指差した。
「あらそう?縁起がいいわね。南へ行くツバメは大勢『お客さん』を連れてくるっていうから」
「あれ?ごめんなさい、違った。あれはカササギだわ」
「まさか。カササギは暖かい国の鳥じゃない」
「そんなことはないわよ。暖流の関係で、沿岸部は意外と暖かいからカササギがいるって地理の先生
が言ってたわ」
部屋の中で動き回っていた銀髪の女が二人を睨みつける。
、あんたたち、早くテーブルに着いてよ。気が散って仕方ないったら」
「あら、ごめんなさい」
「まあ、西の風よ。雲が動いてる。素敵、雲が動いてるのを見るとゾクゾクするわ」
「早くったら!」
うつとり空を見上げていた少女は肩をすくめ、カーディガンを引っ張って羽織り直すと部屋の中に
戻った。
女たちは咳払いをし、真面日くさった顔で、テラスに向かって平行に置いた細長いテーブルに着く。
テーブルの両はじに置かれたロウソクには火が点り、開け放したテラスから吹き込む弱い風にチラ
チラ揺らめいている。テーブルには、席に着いている三人の前に一つずつ鮮やかな朱塗りのお椀が伏
せられている。ロウソクの炎がその表面にぼんやりとした明るい点を作っていた。
「今年こそケント叔父さんだわ」
少女がおもむろに眩く。隣の女が鼻を鳴らす。
「どう考えたって、やっぱり今年はニザおじいちゃまでしょうよ」
「しっ!静かに。モットーに並び立つ陛下に栄えあれ!」
銀髪の女が厳かに眩くと、他の二人もぼそぼそと唱和した。
モットーに並び立つ陛下に栄えあれ。
部屋に沈黙が降りる。
遠い空の片隅で、かすかに閃光が走った。
秋から冬への訪れを告げる、くぐもった雷鳴。どことなく湿った空気が部屋の中にじわりと流れ込?んでくる。
女たちは眉をひそめ、遠い雷鳴すら耳に入らぬ様子で何事かに集中している。
部屋の中に、何かが膨らんでいく。密度の濃い、緊迫した何かが。
三つのお椀がカタカタと揺れ始めた。最初は聞き取れないほどかすかな音だったのに、古い木のテ
ーブルを鳴らす小刻みな振動は徐々に増幅され、部屋に響き渡るほど大きな音になっていく。
突然、火の中の木の実が爆ぜたような音を立て、次々とお椀が跳ね上がった。
「おう!」
女たちは小さく叫び、目を開けると、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。
一斉にかがみこんで床に落ちているお椀に目を凝らす。
女たちは同時に顔を見合わせた。どの顔にも当惑の表情が浮かんでいる。
「ない」
「ないわ」
「卵はどこ?」
「嘘みたい。どれも空っぽ」
「そんな馬鹿な」
その瞬間、窓の外で、グシャリと鈍く世界が纏割れたような音がした。
誰もが音のした方に目をやる。
遠雷と閃光。部屋の中が一瞬色を失った。
女たちは身動ぎもせずにじっと窓の外を見つめている。
ようやく銀髪の女がかすれた声で眩いた。
「誰なの?」
その戸惑った声に答える者はない。


(本文P. 8〜11より引用)



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