プロローグ
いつもと変わらぬ日曜日。
そのはずだった。
それは真冬の出来事だった。外から聞こえる強い風。空き缶の転がる音。玄関にかかってい
る表札が、カタカタと扉を叩く。
正午を少し回った頃、突然、二階建ての古いアパートの一室から、ただならぬ悲鳴が上がっ
た……。
所々に飛び散った血の痕。男の右手に握られている包丁の先から、ドロッとした赤い液がポ
タポタと床に垂れる。すぐ傍には、首や心臓をめった刺しにされた三人の男たち。一人は目を
剥き、舌をダラリと出している。残りの二人はうつ伏せになって倒れている。
三人とも、ピクリとも動かない。
包丁を手に、立ちつくしている男の後ろには、口をパクパクと動かしている女と、泣きじゃ
くる子供が一入。
?男は、震えながら振り返る。そして、青ざめた表情を浮かべ、二人にこう眩いた。
俺は……。
男は、刃先を自らに向け、激しく動く心臓に突き刺した。身体に包丁が刺さったまま、男は
床に崩れ落ちる。
玄関先の、無惨な光景。
四つの死体を、呆然と見つめる女。
子供の泣き叫ぶ声が、延々と響いていた……。
カウント4
真っ暗闇の一室には、男女合わせて二十人の子供たちが膝を抱えて座っていた。お互いの顔
は見えない。ただ四隅に、大人の影が確認できる。なぜここに連れてこられたのか理解できな
い子供たちは、それぞれ不安な声を上げる。次第にざわめきが大きくなっていく。
帰りたい。どこからか女の子がそう叫ぶと、正面のワイドスクリーンが光を放った。
画面には、青いジャージを着た一人の男の子が映し出される。その途端、部屋は静まり返る。
狭い一室に敷かれた布団の上にポツンと座ったまま、男の子はただ壁を見ている。
子供たちは、状況を全く把握できない。なぜこのようなモノを見せられているのか……。
スピーカーから、扉が開く音がする。男の子は反応し振り返る。現れたのは、警備員のよう
な格好をした男。男の子が何かを尋ねる前に、男はこう告げた。
『先ほど、君のお父さんとお母さんが自宅で首を吊って死んだ』
男の子の目がギョッと見開かれる。
『え?』
|