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 また会う日まで
著者
柴崎 友香 著
出版社
河出書房新社
定価
税込価格 1,260円
第一刷発行
2007/01
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ISBN 4-309-01801-7

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好きなのに今は会えない人がいる・・・・・・
 

本の要約

好きなのに今は会えない人がいる……有麻は25歳OL。高校時代、修学旅行2日目の夜。同級生とのある記憶を確かめるため、約束もなしに上京。6日間の東京滞在で、有麻は会いたい人に会えるのか? とびきりの恋愛小説!


柴崎 友香 (シバサキ トモカ) 先生


1973年、大阪府生まれ。行定勳監督によって映画化された『きょうのできごと』で2000年にデビュー。著書に『青空感傷ツアー』『ショートカット』『その街の今は』などがある。

2007年1月12日に、ご来店いただきました。「また会う日まで」にサインしていただきました。お忙しい中、ありがとうございました。




オススメな本 内容抜粋

月曜日

地下鉄が速度を落とし、たくさんの人が待つところへ入っていったけれど、ドアの窓越
しに見えるそこは普通の駅よりも薄暗い気がして、トンネルのどこか途中で止まってしま
ったんじゃないかという気持ちがよぎった。
実際、ドアが開いてプラットホームに降りると、駅は大規模な改装工事の最中だった。
見上げると、暗い剥き出しの天井から、最低限の簡単な笠だけがついた蛍光灯がぶら下が
って、端から端まで白い直線で光っていた。乗ってきた半蔵門線が出ていくのと入れ違い
に、反対側に銀座線の柔らかい榿色のラインが引かれた車体が入ってきて、二つの電車の
立てる音と警報音が複雑な形になった構内のそこら中に反響している。電車が出ていった
あとの壁や天井のコンクリートは、煤けていて一段と暗い色に感じる。
パーカのポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が振動したので、階段に向かう
人たちの流れから外れて立ち止まった。
あと五分ぐらいで着きそう。
しょうちゃんの短いメールを確かめて振り返ると、今度は銀座線が出ていって、そんな
に広くはないホームの反対側に人の列ができた。階段や柱の周囲は、鉄パイプや白いボー
ドやネットなんかで覆われているところが多くて、その隙間に見える表示で出口の方向を
もう一度確認して、表参道のホームからはどの階段を下りても同じところに出るんだと思
い出した。
すぐ前にある階段の降り口は、片側が工事用のボードで仕切られていて、三分の二ぐら
いの幅になっていた。その脇に、ヘルメットに反射テープの付いた作業服のおじいさんが、
警備というよりも案内係という感じで立っていて、電車を降りたばかりらしいおばちゃん
になにか聞かれている。
擦れ違った、腰の骨がはっきり見えるほど浅いジーンズの女の子が、連れのお揃いみた
いに似たような格好の子に笑いながら言ったのが耳に入った。
「絶対、それ嘘だよ。わたしには二百って言ってたもん」
あと五分、待ち合わせの場所は外に上がってすぐのところだから、写真を撮ろうかなと
思って、階段の囲いの脇に立ってもう一度ホームを見渡した。何十年前からあるのかはわ
からないけれど、それなりに古い駅で、天井も低かった。銀座線の側のコンクリートの壁
は、五メートルほどの間隔ごとに角のあるアーチ形に下半分が開いていて、向こうが見え
る。こちらとちょうど逆に銀座線、半蔵門線と並ぶプラットホームを歩いていく人たちの
足だけが見える。暗い部屋の窓から覗いているみたいな感じで。銀座線の新橋駅の近くに
は、とっくに使われなくなったホームが暗闇の中に残っているところがあるって聞いたこ
とがあるけれど、そこから見たらこんな感じじゃないかと、勝手な想像をしてみる。
日付を入れて撮ってみようか、と思いついた。ずっと前に写真雑誌で、わざと数年後の
日付を入れて撮った写真を見たことがあって、現在なのに未来の廃塘みたいに見えたその
写真の変な感覚を、まだ作っている途中なのに待ちきれずに使っているようなここにいて
思い出した。2005.07.11.と、ほんとうの日付を入れているのに、嘘の日付を記した写真み
たいに見えるかもしれない。オレンジ色の光の粒で表されている次の電車の案内を見なが
ら、肩から掛けているキャンバス地のバッグに手を突っ込んでカメラに触ったけれど、よ
く考えたらわたしのヵメラには日付を入れる機能はなくて、どうしようかちょっと迷った。
結局、カメラを出さないで狭くなったホームをすり抜けるようにして階段の降り口へ回っ
た。もう次の電車が近づいていた。
工事のお詫びが掲げてある白いボードに沿うように階段を降りて曲がり、地下鉄から地
上に出るのになんで降りるんだろう、とこの駅でいつも思うことをやっぱり思った。しょ
うちゃんに言われた出口の記号を探しながら、今朝東京に着いたときにすぐに買ったプリ
ペイドカードを突っ込んで改札を出た。ホームよりも改札の外のほうがもっと工事中で、
床にもシートやボードが張られていたし、元の壁が見えているところはほとんどないぐら
いで、あちこちに配管やコードがはみ出ている。


(本文P. 3〜5より引用)

 

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