BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 プルコギ 焼肉小説
著者
具光然/著
出版社
小学館
定価
税込価格 1,260円
第一刷発行
2007/04
e−honでご注文
ISBN 978-4-09-386175-5

 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒
 
2007年GW公開の映画の原作小説。実は兄弟の焼肉チェーン店の御曹司と、プルコギ食堂の料理人が料理バトルを繰り広げる。
 

本の要約

2007年GW公開予定の映画「The 焼肉ムービー プルコギ」の原作小説。巨大焼肉チェーン店「トラ王」の御曹司、トラオは全国各地で店舗の買収を進め、人気テレビ番組「焼肉バトルロワイヤル」で連戦連勝、キングの座に君臨していた。いっぽう、「焼肉の達人」韓老人が長年営み、老人のもとで修行中のタツジと看板娘のヨリが切り盛りする北九州の隠れた名店「プルコギ食堂」は、地元の人から愛され、絶大な支持を得ていた。幼い頃に離ればなれになった兄を今でも探し続けているタツジ。彼は、北九州地区を制覇すべく、「プルコギ食堂」買収に乗り出したトラオと「焼肉バトルロワイヤル」で対戦することになる。赤肉派「トラ王」対白肉派「プルコギ食堂」、究極のバトルが繰り広げられる、史上初の焼肉エンタテインメント小説!

The 焼肉ムービー プルコギ オフィシャル


吉祥寺バウスシアター
■2006年/日本/114分/カラー/ドルビーSR/ビスタサイズ/配給:ファントム・フィルム

上映期間

5/5(土)よりロードショー

上映時間

11:45/14:05/16:25/18:45

当日料金

一般1.800円/学生1.500円/シニア・会員1.000円

前売券

特別前売鑑賞券1.500円劇場窓口にて発売中(※5/4まで)
■監督・脚本:グ スーヨン/出演:松田龍平/山田優/ARATA/田口トモロヲ/ムッシュかまやつ /桃井かおり/田村高廣ほか/原作:具光然(小学館 The焼肉小説「プルコギ」)/撮影:無州英行/音楽:MaMiMery/主題歌:山崎まさよし「NAVEL」(UNIVERSAL)

予定ゲスト
松田龍平、山田優、ARATA、グ スーヨン監督
※当日、変更になる場合がございますがご了承下さい。


オススメな本 内容抜粋

【コブチャン】
コプチャンは、韓国語で牛の小腸ってゆー意味。小腸の外側にはぷりぷりの脂がついとって、
ここが最高にうまい。この一番うまい脂をもったいないことに、ほとんど取り除いて腸の皮だ
け出す焼肉屋も多いみたいやけど、そーいうとこは行かんほうがええと思う。うまいもんを捨
てる店なんてのは他の肉もまずいに決まっとる。
店によって皮を開いて出すとこと、丸いまんま出すとこがある。九州でよお見掛ける丸腸は
丸いまんま。プルコギ食堂もそれ。
小腸の外側についとるぷりぷりの脂を皮の内側に入れる、要は表裏をひっくり返す作業が
「しぼり」。見た目は単純な作業やけど、かなり難しい。下手な人は皮の中に脂をうまく入れら
れんで、削ぎ落としてしまう。オレもよお失敗してじいちゃんに杖で叩かれた。
下味は、醤油ダレやらコチュジャンを使った甘辛い味噌ダレやら、いろいろある。オレが好
きなんは、やっぱ塩ダレかな。しぼったコプチャンに味がまんべんなくよおしみこむよう、塩
とゴマ油を丁寧にやさしくムンチする。あ、っと、「ムンチ」は韓国語で、手で和える、揉み
込む、っていう意味やけ。
味がシンプルで正直な分、塩ダレは「焼き」が難しくなる。誰がどう焼いたって同じやん、
と思うかもしれんけど、きちんと上手に焼けば、コプチャンに限らず焼肉っていうんは驚くほ
どうまくなる。決め手はターンのタイミングかな?ん、極意?それはやね、経験とか感覚
とか才能とかいろんなもんがいっしょくたになっとって、口ではよお表現しきらん。オレも今
だによぉわかっとらん。の。かも。

[1]

円筒状の物体が、まるで生きているようにうねうねうねる。適度なぬめりと光沢、やわらかそ
うな質感。美しいピンク色の皮が白く変色しながら縮み始めると、居場所を失った半透明のぷり
っとした脂が両端の切り口からはみ出し、炭の上に滴り落ちて、じゅうーっという香ばしい音と
ともに赤味を帯びたオレンジ色の火柱と白い煙が七輪の網の上に立ち上がった。タツジは、隣の
老人を横目で見た。老人は、目を閉じている。
皮と脂の動き、炭の弾ける音の響き、火の色合い。ここまでは、いつもとまったく同じや。と
タツジは思った。そーいや、何回目のいつもやろうか?
毎週、火曜日の朝イチ。老人とこうしてコプチャンを焼き、食べ比べする習慣は、ほぼ二年前、
タツジが一年間の料理修業を終えて東京から北九州に帰ってきた次の日の朝、なんということも
なく始まり、今日まで一度も欠かすことなくつづいている。
一年ぶりの北九州、脂まみれの小汚い食堂は相変わらずそこにあった。懐かしさの、安堵と興
奮のまどろみの中で少し遅く目覚め、タツジが一階の食堂に降りていくと、老人はひとりでコプ
チャンを焼いていたのだ。
「タツジ、オマエも焼いてみるか?」
「ハ?あ…はい」
あの日から二年が過ぎたことを、タツジは思いがけず思い出した。
二年間ゆーんは長いんか。短いんか。そーいや、オレはまだじいちゃんに一ペンも勝っとらん。
一ペンも?勝つ?それどころか、食べてもろーたことさえないやんか。この二年間はなんや
ったんやろうか。なんか意味があったんか。もうすぐオレは二十才や。こんなんで一人前になれ
るんか。大丈夫なんか。こんままでええんか、オレは。
老入の箸が淀みなくひらりと舞った。箸が触れたか触れないか、網の上のコプチャンが、ころ
んっと三分の一回転した。老人は目を閉じたままだ。
うっ、あ、とっ。
タッジも思わず箸を出した。老人とは対照的にゆっくりとコプチャンを挟み、慎重に三分の一
回転させる。網の下に隠れていた皮の表面に、かりっとした質感の淡いきつね色が現れる。
これでいい、悪くない、はずや。
タツジは、また老人を横目で見た。
ここまではまだ同じ、いつもと。のはず、か?
肉は同じ面を二度焼いてはならない。二度焼きは焼肉の致命傷になる。そのメカニズムも理論
も、タツジは知らなかったが、各面を一度だけ完壁に焼いて仕上げた肉と、同じ面を何度も焼き
直した肉は、見た目にはそれほど大きな違いはないのに味と食感に圧倒的な違いがあることを、
タツジの舌は経験から嫌というほど知っていた。薄い肉の場合、焼く面は二面、ターンは一回き
り。厚みのある肉の場合、例えば、直方体や立方体のようなブロック型の肉なら、焼く面は六面
だ。ターンはきっちり五回、それ以上はありえない。今、タツジの目の前にある、一回目のター
ンを終えた丸腸と呼ぼれるコプチャンの場合、三分の一回転のターンを正確に二回行なうことで、
ゆるやかな弧を描く円筒状の全面を焼き上げる。それが隣に座る老人の、プルコギ食堂の、揺る
ぎない方式だった。老人の箸が再び、ひらりと舞った。最後のターンだ。
じいちゃん、いつもより、ちょお早よおないか。しっかし、この二年間、いや、じいちゃんの
焼きを最初に見てからやけ、何年か?オレが七才のときからやけ、十二年、いや、十三年か、
ずっと思おとるけど、よお目えつむったままできるちゃね。目、尺開いとってもあんな神業のよう
な動き、よおせん。まるで超能力やんか。そんなことより、オレのコプチャンは、大丈夫なんか?
タツジは、目の端に老人の動きをとらえて動揺した。そして迷った。
まだか?……まだだ。本当にまだなんか?……たぶんまだやろ。一秒後か?二秒後か?
……一秒前やったか。二秒前やったか。
老人が隙のない軽妙な箸さぼきで、二回目の、最後のターンを終えると、タツジの箸を持つ右
手が微かに痙攣するように揺れ始めた。
人のフリ見て我がフリ直すなちゅーうに。我が道を行かんか、コラ!
ヨリは、タツジを心の中で叱咤した。
毎日毎日、焼肉の脂と煙にまみれ、元の色がわからないほど薄汚れた壁、煤けた天井、焦げ茶
のどろどろがこびりついた換気扇、剥き出しのコンクリートの床、五人座れるカウンター、合板
の化粧板をアルミの枠で縁取った年代物のテーブルが五卓。キレイとかオシャレといった言葉と
は一生縁がなさげな食堂の、カウンターの椅子に浅く腰掛けて、ヨリは、窓際の二卓のテーブル
に並んで座っている二人を見ていた。ふと窓の外に目をやる。三月の日差しが湾の照り返しで、
思わず目を細めてしまうほど眩しく輝いていた。軒先に吊るした干し柿のシルエットと若戸大橋
の赤い色が光の中で滲んで見える。
ああ、ええ天気や。と思いながらヨリは、すーーっと軽い深呼吸をするように息を吸い込む。
なんか、鼻孔の内側がぴりぴりする。今日は空気が乾燥しとるんやなあ。ここんとこ風も強かっ
たし、炭の火が強いはずやん。
タツジの箸が迷いを含んだ動きで、網の上のコプチャンを回転させた。表面の焼き色にわずか
だがムラが見て取れた。明らかな焼き過ぎだ。
あーあ、もう見とられん。今日はダメダメやな。空気くらい読まんかい、ったく。て、ま、ど
っちの意味でも空気が読めんタイプやな、タツジは。ハハ。
偶然、頭の中で出来上がった「空気」のダブルミーニングを、なかなかのものだと気に入り、
タツジの前でいつか使ってやろうと目論んで、ヨリはなんだか可笑しくなった。
ま、どーでもええけど、皿、またぶっ飛ぽされるんやろうなあ。こう毎週毎週割られるとなあ、
皿もタダやないんやけ、ええ加減にしてほしいっちゃ。
老人の目がすっと静かに開かれた。ヨリが無意識に予測していたタイミングとほぼ一致してい
た。老人は、左手に箸を持ち替え料理鋏を右手に取ると、網の上のコプチャンを一口大に切り分
け始める。幼い頃から見慣れている上品でやさしい所作だった。一方のタツジも料理鋏を持ち、
自信のなさに目を泳がせながら、おぼつかない手つきで老人の動きを追った。


(本文P. 5〜7より引用)

 

▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <別ページでご覧になれます



e−honでご注文
BOOKSルーエ TOPへリンク
 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.