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 灯台守の話
著者
ジャネット・ウィンターソン/〔著〕 岸本佐知子/訳
出版社
白水社
定価
税込価格 2,100円
第一刷発行
2007/11
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ISBN 978-4-560-09200-2

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みなし児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられ、200年前のある牧師の「愛の物語」に耳を傾ける…。
 
灯台守の話 ジャネット・ウィンターソン/〔著〕 岸本佐知子/訳 

本の要約

真実の愛を求めて。みなし児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられ、夜ごと、百年前に生きた牧師ダークの「数奇な人生の物語」に耳を傾ける。シルバーとダーク、やがて二つの「魂の遍歴の物語」が交差していく…。待望の傑作長編。


2007年11月16日 弊社BOOKSルーエにご来店してくださいました。

 訳者:岸本佐知子(きしもと・さちこ)
1960年生
上智大学文学部英文学科卒
アメリカ文学専攻
主要著書
『気になる部分』(白水社)
『ねにもつタイプ』(筑摩書房)
主要訳書
J・ウィンターソン『さくらんぼの性は』(白水社)『オレンジだけが果物じゃない』(国書刊行会)
N・ベイカー『もしもし』『中二階』『フェルマータ』『室温』『ノリーのおわらない物語』(白水社)
J・アーヴィング『サーカスの息子』(新潮社)
E・エンスラー『ヴァギナ・モノローグ』(白水社)
S・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(白水社)
L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』(白水社)
J・バドニッツ『空中スキップ』(マガジンハウス)


お忙しいところご来店いただきましてありがとうございます。
「灯台守の話」にサインをしてくださいました。
2007/11〜12まで2Fにて、ミニフェアを開催いたします。




オススメな本 内容抜粋

母さんはわたしをシルバーと名づけた。わたしの体は銀と海賊とでできている。

わたしに父さんはいない。そうめずらしいことじゃない。父親のいる子だって、自分の父親の姿を
見かけてびっくりすることがあるくらいだ。わたしの父さんは海からやって来て、また海に帰って
いった。波が暗いガラスのように砕け散る夜、父さんの乗った漁船がわたしたちの港に身を寄せた。
船をずたずたにされた父さんは陸に上がり、そのわずかの隙に母さんの胎内に錨をおろした。
幾千万の赤ん坊が、先を争って生命をめざした。
勝ったのはわたしだった。
わたしたちの家は、崖の上に斜めに突き刺さって建っていた。椅子は残らず床に釘で打ちつけてあ
り、スパゲッティを食べるなんて夢のまた夢だった。料理はどれもお皿にくっつくものぼかり
シェパードパイ、グラーシュ、リゾット、いり卵。いちど豆料理にしてみたら結果は大惨事、いまだ
に部屋の隅っこから埃にまみれた緑色のものが見つかることがある。
世の中には山のてっぺんで育つ人もいる、谷底で育つ人もいる。どちらにしても、たいていの人間
は平らな床の上で育つ。
わたしは人生に斜めに入ってきて、いらい今まで、ずっとそうして生きてき
た。
夜になると、母さんは床の傾斜に交差するように吊ったハンモックにわたしを寝かせた。夜にやさ
しく揺すられて、わたしは自分の全体重で重力と闘わなくてもいい場所を夢に見た。家の玄関までた
どり着くのにも、母さんとわたしは登山のパートナーみたいに互いの体をロープでしっかり結んだ。
一歩足を滑らせれば、もう一巻の終わりだ。
「あなたって子はちっとも外交的じゃないんだから」母さんはわたしにそう言ったけれど、それは
たぶん”外”に出ていくのが大変な難事業だったせいだ。ふつうの子供は家を出るとき、行ってらっ
しゃいの後につくのは、せいぜい「ちゃんと手袋はもった?」だ。でもわたしの場合はこうだった、
「ちゃんと命綱の金具はぜんぶ留めた?」
引っ越せばいいじゃないかって?
母さんは未婚の身でわたしを身ごもった。父さんが訪ねてきた夜、母さんの家の扉はあいていた。
だから母さんは町から離れた丘の上に追いやられ、皮肉なことにその町を見下ろして暮らすことに
なった。
ソルツ。それがおたしのふるさとだ.
海になぶられ、岩に噛まれ、
砂に研がれた貝殻みたいな町。
そう、それと、灯台と。
体を見ればその人の人生がわかるという。わたしの犬が、まさにそれだ。かれは後ろ脚が前脚より
短い。いっぽうで踏んばり、もういっぽうでよじ登ってばかりいたせいだ。地面の上だとぴょこぴょ
ことはずむような歩き方になり、よけいにはしゃいだ感じになる。かれは、他の犬は脚の長さが前も
後ろも同じだということを知らない。かれの考えではそんなものがあればの話だけれど他の
犬も自分もみんな似たり寄ったりで、だから人間みたいに規格はずれをいちいち気にとめて、恐れた
りいじめたりすることもない。
「あんたは他の子とちょっとちがうから」と母さんはわたしに言った。「もしこの世界でやっていけ
ないなら、自分で自分の世界を作ってしまうことよ」
母さんはわたしのことをさんざん変わっていると言ったけれど、それは本当はぜんぶ自分のこと
だった。外に出ていくのが嫌いなのは母さんだった。生まれ落ちたままの世界で生きていけないのも
母さんだった。母さんはわたしが自由に生きられるようにと願い、わたしが自分の二の舞にならない
ためなら、どんなことでもした。
母さんとわたしは好むと好まざるとにかかわらず、しっかりと結ばれていた。わたしたちは登山の
パートナーだった。


(本文P. 11〜13より引用)

 

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