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在日の恋人と日記文学フェア

河出書房新社「在日の恋人」高嶺格著の刊行を記念してブックス・ルーエにて日記文学フェアを催します。期間は2009年4月いっぱいになります。

弊社BOOKSルーエ 2Fのショーウィンドで展示・販売中




↑ セレクト商品の陳列

→ 「在日の恋人」の実際の写真など展示

一冊入魂、わが社の勝負本 辻純平(河出書房新社)

ある日、会社のアルバイトの方の送別会で、編集部のYがこれから出る本の話をしてきた。タイトルは『在日の恋人』。在日二世の恋人を持っ美術家が、マンガン鉱(朝鮮から強制連行されてきた人たちが掘った洞窟のような場所)で作品作りする感動作、というような説明を受けた時、内心「24時間テレビ的な話だったら嫌だな」と思い、読むことをちょっと躊躇した。でも「多分好きだと思うよ」という言葉を信じ、読んでみた。読んでみて凄く良い、と思った。もともと「在日」というようなテーマの本は無意識に避けているようなところがあったし、あまり知識もない。でもこの本は、そういった差別問題に対してヒステリックに何かを主張しようとはしていなかった。ありきたりな言葉や借り物の思想でお茶を濁すようなことはせず、現代美術家であるという自身の立場から問題に向き合おうとしていた。それもとびきり真っ直ぐなまなざしで。その姿勢が文章から滲み出ていて、そこが物凄く良いと思った。
物語は、ある程度の普遍性をきちんと持っている。この本を一人でも多くの人に読んでもらいたいと思い、事前に書店員さんにゲラを渡すなどして、個人として出来ることを試してみた。書店員さんの反応はとても良く、期待しながら発売を迎えたが、今現在、思うように本は売れていない。
自分のカの無さが悲しいし、この状況が悔しい。でもこの本を少しでも多くの人に届けたいから、まだやれることをやる。

「在日の恋人」に寄せて花本武(ブックス・ルーエ)

寡聞にして自分は高嶺さんのことをまるで知らない状態で「在日の恋人」を読みました。あまりのおもしろさに、大いにのけぞり現代人の哀しい習性ですぐに「高嶺格」でグーグル検索をしていました。本書は高嶺さんの美術作品「Baby Insa−dong」「在日の恋人」「海へ」がもとになっています。それらの作品への評価は、自分にはできませんが、「在日の恋人」という偉大な“美術作品製作記録文学”に対しては、僖越ながら賛辞をおしみません。 高嶺さんは二人の他者とがっぷり向き合うことになります。在日の恋人(現ご婦人)とマンガン記念館の館長です。 マンガン記念館というのは、戦中の過酷な鉱物採掘現場の歴史を伝える施設です。多くの朝鮮人が強制連行されていた記録があります。恋人に在日への嫌悪感を質されるという火種を抱えたまま、マンガン記念館にある洞窟で作品発表するという途方もなく、ある意味マゾヒスティックなプロジェクトを遂行していく高嶺さん。それはテレビで芸能人が無茶苦茶なことに挑戦する番組のように楽しめてしまう部分もありますが、覚悟がまるで違うので、笑いよりはスリルを感じます。
他者と正面から向き合う覚悟、美術家としての衿持に裏打ちされているのです。その真摯さが不思議なユーモアを醸してるので、やっぱり笑いも大いに感じます。
現代美術が難解であるとかスノッブに感じられてしまう偏見をこの一冊が打破してくれることを願います。
▽ うたかたの日記文学リスト フェア期間中 ショーウィンドの下の棚で展開中!!
・武田百合子「富士日記(上中下)」中公文庫
・峯田和伸「恋と退屈」河出書房新社
・谷崎潤一郎「蜘老人日記」中公文庫
・深沢七郎「言わなければよかったのに日記」宇公文庫
・坂口三千代「くらくら日記」ちくま文庫
・太田静子「斜腸目記」小学館文庫
・金井美恵子「目白雑録」朝日文庫
・ブコウスキー「死をポケットに入れて」河出文庫
・島尾敏雄「死の隷日記」新潮文庫
・アナイス・ニン「アナイス・ニンの日記」ちくま文魔
・山下清「山下清の放浪日記」五月書房
・大友良英「大友良英のJAMJAM日記」河出書房新社
・チェ・ゲバラ「ゲバラ日記」中公文庫
・吾妻ひでお「失踪日記」イーストプレス
・吾妻ひでお「逃亡日記」日本文芸社
・穂村弘「にょっ記」文春文魔
・板尾創路「板尾日記」リトルモア
・川上弘美「東京日記」平凡社
・川上未映子「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」ヒヨコ舎
・辛酸なめ子「自立日記」文春文庫


 在日の恋人
 
高嶺格/著 出版社:河出書房新社 定価(税込):1,575円  
第一刷発行:2008年12月 ISBN:978-4-309-01898-0  
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─ 「あなたのその、在日に対する嫌悪感は、なんやの?」とKは言った。 僕はその質問に答えねばならなかった。
 

本の要約

恋人との見えない壁を乗り越えるため、男は洞窟に住まうことにした…気鋭の現代美術作家による傑作エッセイ。


[目次] ベイビー・インサドン;在日の恋人(マンガン日記;層としての国際感覚;丹波マンガン記念館館長・李龍植さま;Kからの手紙);海へ [出版社商品紹介] 「あなたのその、在日に対する嫌悪感は、なんやの?」──気鋭の美術家が在日韓国人の妻との生活をリリカルかつユーモラスにつづる。

・著者紹介  高嶺 格 (タカミネ タダス)        1968年鹿児島県生まれ。美術作家、演出家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

「あなたのその、在日に対する嫌悪感は、なんやの?」とKは言った。僕はその質問に答えねばな
らなかった。それは二〇〇三年の一月のことだった。それから一年後、彼女は妊娠した。

その質問は、僕に、まるで日本人を代表するように迫った。僕とKとの関係、六年間もつきあっ
ていたこの関係において、そんなことははじめてだった。

在日に対する嫌悪感。彼女にその印象を与えてしまったものは、何か?困惑しながら、僕はそ
の難問に答えようとした。どうしても「自分」を肯定する必要があったのだ。

結論から言うと、僕は、僕を救ってくれたその質問に感謝している。なぜなら、僕がいかに在日
のことを知らなかったか、Kが何を感じながら生きているかを知らなかったか、そのことを知った
からである。Kのことを知るには、在日一世のことを知る必要があったのだ。……いや、実際には、
Kのアボジのことを。

正直に言おう、僕はアボジに会うことを七年間、ずっと避けていた。Kの口から、アボジは日本
人との結婚を絶対に許さない、と聞かされていて、僕はこれをナンセンスだと感じていた。感情的
だと思っていた。僕には、その感情を自分の人生に背負い込むことはできないし、また今後、自分
にそれが必要だとも思っていなかった。
しかし。Kは違っていた。Kは、このアボジの感情の部分こそが、生きている歴史、日韓の歴史
そのものであること、その部分への理解なしには、僕との関係もありえないことに気づいていた。
在日一世の持っている、具体的な「日本」への不信と嫌悪、祖国への強い想い、それはもはや、
日本で生まれ育った在日二世がリアルに感じるものではありえず、むしろそれを、「情熱の欠如」
というコンプレックスとして抱えている。「在日」として不完全である自分、純粋にアンチの存在
ではありえない自分、そのコンプレックスを丸ごと抱えることこそが、二世であるKのリアリティ
であり出発点であることを、僕は知った。

一世の思いを自分たちが引き継がねばならないという「重み」、それを、自分のリアリティ、歴
史に対する距離感の中で反芻しながら、繰り返し自分に「資格」を問うこと、それがKの心の中で
絶えず起こっていたことなのだった。
事実、アボジの語る「祖国」は、Kにとってはそうでなかった。つまり、ソウルに二年間暮らし
たあとのKの結論としても、韓国は、彼女が内在化できる何かではなかったのだ。


(本文P. 9〜11より引用)


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