「だけどさ、アキちゃんの奥さんって偉いよね。ちゃんと戻って来たんだから。いまだってきっといろんなぐちゃぐちゃした思いはあるんじゃない。それでもやっぱり自分にとってアキちゃんがベストの相手だって気づいたから帰ってきたのかな」 そう言われると「そんなことはないだろう」と明生は当たり前に思う。明生自身もなずながベストの相手だとは思えなくなっていた。 「何か証拠があるんだよ」 気づくと明生はそう口にしていた。 「証拠?」 渚が訊き返してくる。 「うん。ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」 「それ本当?」 「たぶんね。だってそうじゃなきゃ誰がその相手か分からないじゃないか」 「だからみんな相手を間違えてるんじゃないの」 「そうじゃないよ。みんな徹底的に探してないだけだよ。ベストの相手を見つけた人は全員そういう証拠を手に入れてるんだ」 「そうかなあ」 渚が再び疑問を呈する。 「渚には靖生兄貴が必要な人だけど、靖生兄貴には麻里さんが必要なんだ。でも、そういうときには両方とも間違っているんだよ。ほんとは2人ともベストの相手がほかにいるんだ。その人と出会ったときは、はっきりとした証拠が必ず見つかるんだよ」 いままで思ってもみなかったことが口からすらすら出てきて、明生は内心びっくりしていた。 「ふーん」 「だからさ、人間の人生は、死ぬ前最後の1日でもいいから、そういうベストを見つけられたら成功なんだよ。言ってみれば宝探しとおんなじなんだ」
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