ホンモノの文章力 ─ 自分を売り込む技術
 
  文章とは自己演出だ。 「受験小論文の神様」がテクニックを大公開 !  
著者
樋口裕一
出版社
集英社新書 / 集英社
定価
本体価格 660円+税
第一刷発行
2000/10/22

ISBN4−08−720056−6

樋口裕一(ひぐちゆういち)


一九五一年大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士課程修了。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、小論文の指導に携わり、独自の小論文指導法を確立。「小論文の神様」と呼ばれる。小論文指導ゼミナール「白藍塾」主宰、東進ハイスクールでも指導にあたる。著書に『ぶっつけ小論文』『予備校はなぜおもしろい』ほか、訳書にソニー・ラブ=タンシ『一つ半の命』、エイモス・チュツオーラ『妖怪の森の狩人』、ジョルジュ・バタイユ『エロスの涙』など多数。

 

文章を書く機会が増えている。大学の入試だけでなく入社試験でも、小論文を書かねばならない。そのうえ、自己推薦書や志望理由書、会社に提出する報告書や企画書、eメールやホームページでディスプレイ上に書く文章……。あなたは「文は人なり」と思って、そのような文章を書いていないか。そして、そのために大損をしていないか。本書は「文は人なり」ではなく、「文章とは自己演出だ」という考えにもとづき、現代人の生活全般で必要とされる”文章”の書き方を明快に解説する。自分を演出する文章を組み立てるうちに論理的思考が身につき、未知な自分にも出会える!ホンモノの文章力も手に入るはずだ。

はじめに

私は長い間、予備校や通信添削によって、大学受験生の小論文指導を行ってきた。大学受験生対象の参考書も多数執筆してきた。小論文・作文の参考書だけで三〇冊を超えている。そうした指導をしながら気づくのは、文章を書くことがしばしば能力開発に結びつくという事実だ。もちろん、なかなか力のづかない生徒もいる。

が、めきめき力をつける生徒も多い。そして、文章を書けるようになった生徒たちは、小論文が得意になるだけでなく、国語の成績も上がっていく。それどころか、英語も社会も力を伸ばしていく。つまり、文章を書くことが引き金になって思考力がつき、社会や人間を見る目を養っていく。

大学生のふがいなさが問題になる時代だというのに、久しぶりに会った教え子がしっかりと勉強していることに頼もしさを感じることも多い。そして、大学生になったり、社会人になったりした教え子たちが決まって言ってくれるのが、「おかげで、大学のレポートに苦労しない」

「受験勉強をしたつもりだったのに、それ以上のものが得られた」ということだ。そして、彼らの学問や社会や芸術についての鋭い意見に目を見張ることも多い。私は、そのような経験をするごとに、教師冥利につきる思いがし、同時に文章力こそが思考力のエッセンスだという信念を確認するのだ。これからますます知性が求められる時代になる。

かつてのように言われたことをそのまま実行していればいい時代ではない。自分で考え、自分で疑問を見つけ、自分で分析し判断することが求められるようになっている。若者はもちろん、壮年の人々も、もっと文章を書く力を養うべきなのだ。ところが、そのわりに、文章を書くことが軽視されていると言えないだろうか。

大学受験生の間では、文章を書くことの大事さがやっと認識され始めてはいるが、小学校でも中学校でも作文教育が行われることは少ない。とりわけ社会人になると、文章を学ぶ機会は皆無と言っていいだろう。

もちろん、文章術の本は何冊も出ている。大作家の書いた文章読本が読み継がれている。私はもちろんそれらの文章読本を否定するつもりはない。だが、それらがほんとうに役に立つかというと、疑問を感じざるをえない。直接的に役に立つことをめざす受験参考書をたくさん書いてきた人間から見ると、これらは実践性があまりに欠けているのだ。

そこには、すぐに役に立つテクこツクが書かれていない。私は、受験生を指導するとき、受験テクニックに徹する。生徒の目的はただ一つ、合格点の取れる文章を書けるようになることだ。だから、私はそれをかなえる努力をする。もちろん、私は前に述べたとおり、小論文や作文こそ受験科目のなかでもっともホンモノの力を養うことができる科目だと信じている。

そして、心の奥では、受験技術だけを教えているわけではないという自負を持っている。だが、そのようなことは口にしない。「こうすれば、良い点が取れる」「こうすれば、採点者の目を引く」「こうすれば、力がなくても力があるように見せられる」と教える。

時々、私の真意をわかってくれない「真面目」な小論文指導者からも、時には生徒からも、「受験技術ばかりを教えている」とお叱りを受けるほどだ。だが、私はこうして、受験生が受験テクニックを身につけようとしているうちに、いつのまにか単なる受験テクニックではない、ホンモノの思考力、ホンモノの文章力をづけている、ということをもくろんでいるのだ。

思い出していただきたい。今、大人が身につけているほとんどのことは、「将来、立派な大人になるために必要だ」などと思って身につけたものではないはずだ。目先のテストでなんとか合格点が取れるように、恥ずかしい思いをしなくて済むように、と思って勉強した結果、いつのまにか力がつき、その科目に興味を持って勉強してきたも のなのだ。本書で、私がめざすのは、徹底的に実践的で戦略的な文章術だ。ここでは、「ホンモノ」の力をつけることは、とりあえずめざさない。テクニックとして、手軽に高い評価を得られる文章をめざす。そして、楽しんで邪道のテクニックを身につけているうちに、ホンモノの文章力がついている、そんな学習法をめざす。

なお、本書は、これまで様々な参考書で書いてきたことを、できるだけわかりやすい形で一冊の一般書としてまとめたものだ。また、本書に参加しながら、まさしく実戦力を身につけてもらうために練習問題をたくさんつけた。できるだけ多くの方が、本書を手がかりにして、「邪道」のテクニックを身につけ、文章を楽しみ、いつのまにか文章の達人になってくださることを祈る。

 

 

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