まえがき
オレは、目の前にいる自分のお客様の耳元にわざと顔をよせて、小声でボソボソしゃべることがある。
他のテーブルにいる女性の気をひくためにあえてそうしているわけ。
まわりに聞こえないようにボソボソ話しているのを見た、他のテーブルの女性は、「零士は、あの女性と何を話してるんだろう?」
「楽しそう!私にもああやってボソボソ話してほしい」と思ってくれるわけ。
だから、耳がどんどんダンボになっていく。
オレが何を話しているのか聞きたがる。
そうなれば、もうこっちのもの。
まずは相手の関心をこちらに向けることが、こっちのぺースに引き込むコツなんだよ。
ホストの世界ではタブーといわれていたけど、オレはお客様の年齢を聞いたよ。
「年、いくつ?」って聞くと、たいていの女性は、「いくつに見える?」って逆に聞いてくるよね。
そんなときは、「いやあ、首がきれいだからわかんないや!二十一くらいのションベンくさいガキじゃないし、かといって二十八じゃないよね?」なんて言いながら、相手の首をじっと見る。
で、女性が「二十五」って答えたらすかさず「若く見えるよね」とフォローする。
こんなとき、女性は必ず一瞬、スキを見せるんだ。
表情やちょっとしたしぐさに出るから、そこを逃さないで一気にもっていくんだよ。
年齢を当てようとしているわけだから、相手をじっと見つめても変な感じはしないじゃない。
別に首を見たくてこう言ってるんじゃないんだ。
相手がほんの一瞬見せるスキを見逃さないために、じっと見ざるを得ないシチュエーションをあえて作り出しているんだよ。
はじめて会う人に自分をプレゼンテーションするときなど、たとえば与えられた時間が一分間しかなかったら、じっと見るのがもっとも有効なんだよね。
そのためにどうしたらいいかと考えた結果、年齢を聞くのが一番いいとオレは判断したんだ。
オレたちホストは、こんなふうに相手を見ているんだ。
そんなオレたちにとって面白いのは、「私、料理はしないの」とか、「人がいっぱいいるところは嫌いなの」って、イヤなことやダメなことをはっきり言う女性。
普通の男性だったら、最初にそんなこと言われたら、そういう話題には触れないようにしようと思うでしょ?
でも、そうじゃないんだ。否定したところに、じつは大きな突破口があるんだよー・
「なぜ、この女性は料理しないんだろう?」といろいろ考えてみるんだ。
母親と仲が悪いから教わっていないのか、ただ面倒くさいのか、健康のことを気にしないのか、家にいる より外に出るほうが好きなのか、男には尽くさないタイプかと頭をフル回転して考えていって、できるだけ早い段階で、アバウトでいいから、こうなんじゃないかなと思ったことを口に出してみる。
「あなたは外で食事するのが好きなんだね。フットワークが軽いんだ」
さりげなく言ったこういう言葉って、相手の胸のなかでいつまでも響いちゃうんだよ。
「この人、他の人とちょっと違う」って思わせることができる。
いま言ったことは、オレたちホストが女性を口説き落とすテクニックのほんの一部だけど、これは相手が男性であっても、ビジネスのシーンであっても同じように通用するんだ。
相手と面と向かっているときに何ができるか。
一瞬のチャンスを逃がさずいかに自分を優位にもっていくかですべてが決まるんだ。
この本では、そのことをわかりやすく書いたつもり。
アメリカのテロ事件で、特殊部隊がニュースに出てきたよね。
彼らは、さまざまな訓練を受けているだろうけど、敵と面と向かって、いざ一対一になったときどうするかっていうマニュアルは、シンプルなものだろうと思うよ。
銃もナイフもない状況でも、一撃で相手を倒す方法といったことをみっちりトレーニングするんだろうな。
心理戦も同じことだよ。
いくつものマニュアルはいらない。
ここぞというときに使える"たったひとつ"をマスターしている人が、心理戦という「実戦」に勝てるんだよね。
たったひとつといっても、それは人によって違ってくる。
自分の性格やタイプに合わせて、この本に書いた、どのテクニックなら使えるかセレクトしてほしいな。
自分の方法さえ身につければ、あなたは心理戦術で優位に立つことができる。
そうなると、もっと先に進みたくなるよね。
そのときは、もう一度この本を読み返して、新しいツールを増やしてほしい。
平成十三年十二月
零士
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