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プリズンホテル 4 春
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著者
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浅田次郎 | |||||
出版社
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集英社文庫/集英社 | |||||
定価
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本体価格 686円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/11/25 | |||||
ISBN4−08-747378−3 |
1 「うんと長生きして、文化勲章を貰うまでは、決して死にはしない」 擢を舟べりに上げて寝転ぶ。 つまり、ぼくはいまそれぐらい、かつて知らぬ幸福と安息のうちにいるということだ。 だが、あのころの空はこんなに青くはなかった。 美加がオーバーオールの肩をすくめて、小さな溜息をついた。 ぼくは身を起こして、艦に座る美加に手をさし延べた。 このボート場を見下ろす一番町のマンションの最上階で、ぼくらは暮らし始めた。 「どうしたら、お空を大きくかけるの?」 「家に帰って画集を見なさい。とても大きな青い空を描いた画家だよ」 「あわてるな。時間は十分にある」 「あい。おとうさんのおうちは早死にの家系だからね、なるたけはやくご恩がえしをしない と、まにあわないって」 帰ったら両手にダンベルをくくりつけて、手すりから逆さ吊りにするとしよう。 「うちはたしかに早死にの家系だが、おとうさんは別だよ。殺されたって死なない自信はある。うんと長生きして、文化勲章を貰うまでは、決して死にはしない」 「天皇陛下からいただくんだ」 「あんなもの、勲章じゃないよ」 〈先生 ! 木戸孝之介先生ですね !〉 とたんに死神のような暗い表情は天使のよ.つに明るみ、美容院に通うならわしを身につけ、牛乳ビンの底のようなメガネのかわりにコンククトレンズを入れた。 [─―なんだ、おまえか。いったい何度言ったらわかる。小説家に電話をするときは、そういう神経に障る声を出すな」 〈冗談は顔だけにして下さい。実は、実は一:ああっ、言えない。こんなこととても言えない一っ!〉 |
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