魂のことば
著者
フジ子・ヘミング
出版社
清流出版
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2002/04/15
ISBN4−86029−006−2
明日を信じ、人を愛する;苦しみ、悲しみに耐えてきた;音楽こそがわが命;私が生きるうえで大切にしているもの;私はいつも神とともにある

世界的なピアニストとなり、今や人気絶頂のフジ子・ヘミング。そのフジ子には、長い不遇の時代があった。二十代後半からベルリンに音楽留学しているが、個人レッスンのピアノ教師位しか仕事もなく、母からの仕送りを受けての貧乏生活であった。そんな耐乏生活の経験は、フジ子を逞しくすると同時に、弱者への視線を育むことになった。活字や電波に乗ったフジ子の言葉の端々にも、そんな優しさがほの見えている。トルストイを敬愛し、キリスト教を信仰するフジ子の言葉は、読むだけで後ろから後押しされるようで、生きる力が湧いてくる。

まえがき


私は五歳で母からピアノを習い始めて、十七歳でソロで
のコンサートデビューを果たしました。
その後、東京芸術大学に進み、数々の音楽賞も受賞したこともあり、将来は約束されたものだと思い込んでいました。
しかし当時の日本では、私のピアノを心から評価してくれる人は少なく、外国でピアノを勉強しようとドイツ留学を望みました。
ところが家庭の問題で日本国籍が取得できず、二十九歳で避難民としてようやく留学することができたのです。
さあ、これから薔薇色の留学生活が始まるものと夢見て
いたのもつかの間、待っていたのは日本人留学生からの嫉妬や外国人からの嫌がらせでした。
でも、日々のささやかな出来事に喜びを見出し、学生生活を送りました。
一九六九年、チャンスが巡ってきました。
バーンスタインをはじめ、有名な、首楽家からの推薦があって、デビューできることになったのです。
しかし人生は自分が思い描くようなストーリーにはならないものですです。
直前に風邪をひいて両耳の聴力を失い、リサイタルは惨憺たる結果に終わりました。
スポットライトのあたる舞台から、暗い奈落の底へと突き落とされ、この世を支配しているのはは神ではなく、悪魔ではないかとも思ったほどです。
絶望の中でこれからどうやって暮らしていくのか、私はピアノを弾くことよりも、今日食べるために働かければならなくなったのです。
けれども、一生懸命働いても暮らしは一向に楽になりません。
道でさまよっているあわれな猫や、行き場のない年をとった犬をひきとって一緒に住み始めたのもこの頃です。
私にとって生きていく大きな力となっていました。
そして老後の年金がもらえるようにと、音楽教師の職を続けました。
若い時はうぬぽれもありましたが、世間を渡り、人の演奏を聴いて自分の実力がわかるなうになりました。チャンスというものは、掴み取るだけで成功とは限りません。
私はチャンスを失ってどん底を知り、回り道をしたおかげで、人間的に成長できたように思います。
自分にふさわしい時期がくるまでひたすら待つということも、大切なことだと知りました。
母が亡くなって日本に帰国し、テレビ放映されたのがきっかけで、有名人になってしまいましたが、これは神様が導いてくださったんだといまでも信じています。
人生は諦めたら終わり。
私は苦しみながらも希望を捨てませんでした。
人生をクヨクヨして渡らないことです。
いつも希望をもって、自分がいつも誰かに必要とされていることを忘れないでください。

フジ子・ヘミング

(本文 まえがきより引用)

 

 

 

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