やまない雨はない 妻の死、うつ病、それから…
著者

倉嶋厚

出版社
文芸春秋
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2002/08
ISBN4-16-358850-7
平岩弓枝氏推薦  手記を拝見して仰天しました。どうぞ思い出して下さい。私だけではありません。倉嶋さんの天気予報で元気になった人が日本全国どれほどの数であることか。

妻の急逝に茫然自失、自殺を試みついに精神科に入院、ようやく回復するまでの嵐の日々を、元NHKお天気キャスタ−が率直に綴る


 倉嶋厚さんは元NHKお天気キャスターとして季節の味わいを茶の間に伝え、質朴な人柄もあって人気を博しました。
 妻、泰子さんがガンで急逝したのは九七年六月。かけがえのない伴侶の死に心は沈み、自殺を試みたけれど失敗、倉嶋さんは精神病棟に長期入院することになります。
 本書は、ようやく回復し今日に到るまでの心の動きをきわめて率直に綴ったエッセイで、作家・平岩弓枝さんの推薦をいただいています。(HT)

(文芸春秋HPより引用)

別れを惜しむ季節

人生は季節の移ろいと似ています。
晴れたり曇ったり、降ったりやんだりの毎日を積み重ねながら、とどまることなくめぐっていきます。
その長いみちのりを四季にたとえるなら、老年期は冬に向かって歩きはじめた秋の終わり、といえるでしょうか。
晩秋のお天気には特徴的なリズムがあります。
冬はすぐそこまで来ていても、ひと息に寒くなるわけではありません。
木枯らしが吹き、厳しい冬の到来をいよいよ覚悟したあとで、思いがけなく穏やかな暖かい日和が何度となく訪れます。
いわゆる「小春日和」です。
小春とは旧暦十月の別名で、今の暦の十月下旬〜十二月上句にあたります。
その時期から十二月中旬にかけて、お天気は「木枯らし、時雨、小春日和、木枯らし、時雨、小春日和」という周期的な変化を繰り返しながら、だんだんと冬に近づいていくのです。
小春日和の暖かさは、別れを決意した相手がふとした瞬間に見せるやさしさにも似て、惜別の思いをかえって募らせることがあります。
「これが最後だろうか」と思いながら味わう日だまりの中のひとときは、それが穏やかであればあるほど、私にはせつなく感じられてしまうのです。
北海道の気象台に勤務していた頃、小春日和につきまとうそんな寂蓼感について話した私に、その土地の老人はこう言いました。
「昔の小春日和は、漬物の菜を洗ったり、まきを割ったり、冬ごもりの準備で忙しかった。
今は生活が便利になり、何もせずに、ただ気持ちの上だけで、迫り来る冬を感じているから寂しいのだ」
人生の冬の接近を予感し始めていた私は、この言葉を卓見だと思ったものです。

(本文P.2、3より引用)

 
 


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