第129回芥川賞受賞作!あの女のために異界に堕ちたのか?いや、身の内にうごめくハリガネムシのせいではないか?驚愕・衝撃の問題作、ついに登場!怖ろしくていとおしい物語。
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アパートに戻り、少し眠った。 嫌な感触に目を覚ますと、鼻の上を何かが這っている。 ゆっくりと針金のような物が動いているのが見え、「わっ」と叫んで自分の顔を叩き、眼鏡ごと吹っ飛ばした。 見ると五センチ程のカマキリが畳の上に着地して体を斜めに保ち、小首を傾げてゆっくりと鎌を持ち上げている。 工事現場から連れ帰ったものらしい。 腕時計を見て慌てた。 「亀の湯」は十一時で終わる。 跳び起きてカマキリの上にコップを被せ、洗面器をひっ掴むと猛ダッシュを掛けた。 小銭を台に叩き付けると、番台の老婆は「また滑り込みか、あんた」という顔で見下ろしてきた。
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