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 ピエロで行こう
著者
中園直樹/著
出版社
文芸社
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2004/02
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ISBN 4-8355-7205-X
 
愛する人の心の傷が癒えたとき、ぼくは…。 淋しさに胸しめつけられる純愛ストーリー!
 

本の要約

13刷のヒット作『オルゴール』の著者の最新作は純愛ストーリー。深い心の傷を負った女性と彼女を救いたい主人公の切ないお話。

大学三年生になったぼくが出会った女性は、心に深い傷を負い「死」を思いつめていた。立ち直ってほしいと心を砕くうち、次第にぼくは彼女に惹かれていった…。そして、愛す人の傷が癒えたとき、ぼくはまた一人になった。そう「愛に乾いていた彼女は乾いた砂が水を吸い込むようにぼくの気持ちをどんどん吸い込んでいただけなのだ」──。デビュー作の『オルゴール』、第2作『星空マウス』で若い層から絶大な支持を得た新鋭作家が贈る、初めての恋愛小説。寂しさに胸をしめつけられる、切なすぎる物語が誕生しました



オススメな本 内容抜粋

「もう女の人とはつきあわない。そうすればふられることもないし傷つくこともない」
こう思ったとき、ぼくは自分の心が黒く鈍い光を発する鉄のように固く強くなった
ように感じた。彼女と出会ったのはそんな大学三年の春だった。
大学から帰ると同じアパートに住む仲のいい江崎君が訪ねてきた。おかしそうに笑いながら言う。
「吉田君。留守電聞いてみな」
そう言うと彼はまたおかしいのをこらえるようにしながら帰ってしまった。
同じM県出身の江崎君は骨張った神経質そうな人だ。
背が低く顔が大きく、度のきつい眼鏡を掛けている。
服装は地味だ。
初対面の人ならきっと彼を真面目な人間と見るだろう。しかし、外見に反して女性に関してはかなりいいかげんだ。
ぼくの外見で彼の中身ならそこまで違和感はないのだろうが。
ぼくは何なんだろうと思いながら留守電のボタンを押した。
「あれ、なに、これ留守電なの?会いたい。来て」
女の人の声で入っていた。
その声の後ろに内田さんと、江崎君らしい人の笑い声が聞こえる。
ああ、あれか。ぼくは思い出した。
今年、アパートに内田さんという大学一年生の女の子が入ってきた。
この前友達になってぼくの書いた短い小説をわたしておいたのだ。
「友達とかにも読ませて感想聞いといて」と頼んでおきながら、すっかり忘れていた。
作家志望のぼくは、たびたび友達に自分の小説を読んでもらう。
さっそくあの小説に対する反応があったのか。
江崎君にはもうずい分と前にわたしておいたのに内田さんの友達からの反応のほうが早い。何やってんだろ江崎君は。
とりあえず内田さんの部屋に行こう。
と、戸を開けようとすると何かがつっかえた。
隣の部屋の大林君の洗濯物だ。あいかわらず廊下に山積みになっている。
彼は元ラグビー部で、岩山のような体に角刈りの頭、大きな目、太い眉毛、大きな 口、大きな鼻、歩く騒音のような大声、二週間以上も風呂に入らずけろりとしているこだわりのない明るい性格、そんな人だ。
今まで何度も洗濯をするよう言っているのだが、もうほとんどあきらめている。
これは天災だ。
階段の前に江崎君の部屋がある。
ノックしてみたが反応がない。
上の部屋から話し声が聞こえてくる。内田さんの部屋にいるのだろう。
ノックしてから入ると、内田さんがおばあちゃんからもらったというちゃぶ台を囲んで、三人がビールを飲んでいた。
内田さんはいつものように、ちょっと猫背ぎみで、畳の上にぺたんと正座している。
あいかわらずぼんやりとした表情で何を考えているのか読めない。
電話をしてきたらしい女の子は背中を向ける位置にいて、あぐらをかいてビールを飲んでいる。
ぼくは思った。
肩幅の広い人だな。
しかもあぐらかいてるし、ビールを飲むしぐさも男みたいだなあ。
ハーレーのような大型バイクが似合いそうな雰囲気。
ロックバンドでもやってるのかもしれない。
「おう。吉田君。留守電聞いた?」
その声でぼくは考えを中断した。
「あ、うん。聞いたから来たんだよ」
「笑わなかった?」
「いや、一瞬誰かわかんなかった。でも江崎君の笑い声があったからわかったよ」
そのとき電話の彼女は振り向いていた。
目が合う。
「あ、初めまして」と、お互いに自己紹介をする。栗栖希葉という名前。
猫目で、黒目が小さい。眉は細くくっきりしている。
あごが細く、ちょっときつい感じがする。
彼女はまじまじとぼくの顔を見ている。
(本文P.6〜9 より引用)

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