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 夜は短し歩けよ乙女 
著者
森見登美彦/著
出版社
角川書店
定価
税込価格 1,575円
第一刷発行
2006/11
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ISBN 978-4-04-873744-9

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「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。
 

本の要約

私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。



オススメな本 内容抜粋

これは私のお話ではなく、彼女のお話である。
役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち廻るが、まったく意図せ
ざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気
づいていまい。
これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の
座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、
彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、
心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
願わくは彼女に声援を。

「おともだちパンチ」を御存知であろうか。
たとえば手近な人間のほっぺたへ、やむを得ず鉄拳をお見舞する必要が生じた時、人は拳を
堅く握りしめる。その拳をよく見て頂きたい。親指は拳を外からくるみ込み、いわばほかの四
本の指を締める金具のごとき役割を果たしている。その親指こそが我らの鉄拳を鉄拳たらしめ、
相手のほっぺたと誇りを完膚なきまでに粉砕する。行使された暴力がさらなる暴力を招くのは
歴史の教える必然であり、親指を土台として生まれた憎しみは僚原の火のように世界へ広がり、
やがて来たる混乱と悲惨の中で、我々は守るべき美しきものたちを残らず便器に流すであろう。
しかしここで、いったんその拳を解いて、親指をほかの四本の指でくるみ込むように握り直
してみよう。こうすると、男っぽいごつごつとした拳が、一転して自信なげな、まるで招き猫
の手のような愛らしさを湛える。こんな拳ではちゃんちゃら可笑しくて、満腔の憎しみを拳に
こめることができようはずもない。かくして暴力の連鎖は未然に防がれ、世界に調和がもたら
され、我々は今少しだけ美しきものを保ち得る。
「親指をひっそりと内に隠して、堅く握ろうにも握られない。そのそっとひそませる親指こそ
が愛なのです」
彼女はそう語った。
幼い頃、彼女は姉からおともだちパンチを伝授された。姉は次のように語った。
「よろしいですか。女たるもの、のべつまくなし鉄拳をふるってはいけません。けれどもこの
げどうあほう
広い世の中、聖人君子などはほんの一握り、残るは腐れ外道かド阿呆か、そうでなければ腐れ
外道でありかつド阿呆です。ですから、ふるいたくない鉄拳を敢えてふるわねばならぬ時もあ
る。そんなときは私の教えたおともだちパンチをお使いなさい。堅く握った拳には愛がないけ
れども、おともだちパンチには愛がある。愛に満ちたおともだちパンチを駆使して優雅に世を
渡ってこそ、美しく調和のある人生が開けるのです」
美しく調和のある人生。その言葉がいたく彼女の心を打った。
それゆえに、彼女は「おともだちパンチ」という奥の手を持つ。


(本文P. 7〜9より引用)

 

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