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 そんなはずない
著者
朝倉かすみ/著
出版社
角川書店
定価
税込価格 1,680円
第一刷発行
2007/06
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ISBN 978-4-04-873764-7

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三十歳の誕生日を挟んで、婚約者に逃げられ勤め先が破綻? 突如襲った二つの大災難を乗り越え、年下の男と出逢い、仕事も手にした鳩子。幸運もつかの間、運命は急転直下。なぜか過去の男たちと再会し、探偵につけまわされ。大型新人によるスリリングな展開の極上恋愛小説 。
 
そんなはずない 朝倉かすみ/著 

本の要約


松村鳩子は、30歳の誕生日を挟んで、ふたつの大災難に見舞われる。婚約者に逃げられ、勤め先が破綻。自分を高く売ることを考え、抜け目なく生きてきたのに。失業保険が切れる頃、変りものの妹・塔子を介し年下の男、午来と知り合う。そして、心ならずも自分の過去の男たちとつぎつぎに合う羽目に。さらに、新しい職場である図書館の同僚たちに探偵がつきまとい、鳩子の男関係を嗅ぎまわっている、らしい。果して依頼人は?目的は―。




オススメな本 内容抜粋

第一章 大丈夫



逃げたな、と、思った。
それが鳩子の直感だった。
松村鳩子は薄井孝道を待っている。札幌地下鉄東西線は発寒南駅バス乗り場。待合室の
茶色いベンチに腰かけて、壁かけ時計にまた目をやった。もうすぐ正午だが薄井孝道はす
がたを見せない。
連絡なら携帯に何度も入れた。でも通じなかった。もしや事故にまきこまれたのではと
携帯でニュースを見ても、世の中は平安である。
かれの実家に電話をかけた。二時間近くもほぼ漫然と待っていたのには鳩子なりのわけ
がある。ご挨拶に伺う前に口をきくのは少々ばつがわるかった。
母親がすぐにでた。
「薄井でございます」と愛想よく名乗っている。
「松村です」
鳩子もできるだけ感じよく名乗ったのだが、薄井孝道の母親は、はあ、といったきりだ
った。鳩子の眉がやや曇る。えっと、でひとまず間をおいて、「孝道さんは」と急いで訊
いた。「相模原に戻りました」と、ひらたい声が返ってくる。鳩子は携帯を持ち替えた。
「松村です」
つんのめるようにいった。
「松村鳩子なのですが」
はいはいはい、と、今度はゴムまりをつくような返答だ。
ま・つ・む・ら、さんね、と、メモをとっているふうである。
「お知り合いにひとこともなく戻るなんてどうしちゃったのかしらあの子」
という声はそんなに申し訳なさそうではなかった。何時の飛行機に乗るっていってまし
たっけ、ねえおとうさんと夫を振り返ったようだったが、鳩子はそこで電話を切った。お
知り合いもなにもと空洟をすすりあげている。きのうのきょうじゃないか。
「お嬢さんをぼくにください」
薄井孝道が松村家の居間のソファにしゃっちょこばって腰かけて、鳩子の親に頭をさげ
たのは五月三日の憲法記念日。まごうことなき、きのうである。
「まあまあ、堅苦しい挨拶はそのへんで」
ひとりこちるように父が応えたようすを、鳩子は思いだした。思いだす、というより近
く、その場面が目のなかにくる。
父は腿をせわしく擦っていた。事前にあらかた聞かされていたとはいえ、娘への求婚の
申しこみを受けるのは初めての父だった。困惑したような、はればれとしたような笑みを
浮かべ、しきりにうなずいている。このときまでは六四くらいで困惑のほうに分があった。
薄井孝道は肩で大きく息をした。ネクタイの結び目をゆるめ、鳩子を見て少し笑う。鳩
子はかれのひじを軽くつつき、ざっくぼらんはまだ早いと合図を送った。そしたら対面の
母と目が合った。母は父のかたわらで膝をそろえている。鳩子は母と女同士ともいうべき
目配せをかわし、こっそりと笑い合った。
その母に父が声をかけた。ひと差し指を振りまわしつつ、「あれ、あっただろう、あれ」
と早口でいい立てる。


(本文P. 5〜7より引用)

 

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