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 カツラ美容室別室
著者
山崎ナオコーラ/著
出版社
河出書房新社
定価
税込価格 1,260円
第一刷発行
2007/12
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ISBN 978-4-309-01840-9

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大人の事情? 大人の友情?! 
 

本の要約

こんな感じは、恋の始まりに似ている。しかし、きっと、実際は違う。カツラをかぶる店長・桂孝蔵の美容院を舞台に淳之介とエリ、梅田さんたちの交流を描く各紙絶賛の最新作。


山崎ナオコーラさん

「カツラ美容室別室」の発売おめでようございます!!
本書にたくさんサインをしていただきました。
お忙しい中、ご来店いただきましてありがとうございます。
(1F文芸書・新刊売り場にてサイン本販売中! 2007/12/12)

山崎 ナオコーラ
(ヤマザキ ナオコーラ)


<1978年生まれ。
「人のセックスを笑うな」で
第41回文藝賞を受賞。
同書籍は映画化され、2008年1月19日より公開される。
『浮世でランチ』は文藝賞受賞第一作。
他の著書にエッセイ集『指先からソーダ』がある。

 



オススメな本 内容抜粋

「桂美容室別室」の店長、桂孝蔵は、他人の髪の毛を懸命にカットしているが、自分
自身はカツラをかぶっている。あまりにもはっきりとカツラだとわかるカツラなので、
「美容師なのに『カツラ』」というのを売りにして商売をしているのではないか?と
客たちは思う。そこでいろいろ聞いてみたいところなのだが、カツラのことはなかな
か本人には質問出来ないのが世の常だ。
三月三十日の日曜日、高円寺にあるlDKのアパートへ越してきて、荷物を部屋に
運び込んでから、梅田さんという男のケータイへ、「引っ越してきました」という内
容のメールを打った。すると、すぐに電話がかかってきた。
「もしもし。淳之介?」
梅田さんの大きい声が、オレの小さいケ!タイの中から溢れる。
「はい。……ここ、梅田さんのうちから、歩いて五分くらいですよ」
オレは梅田さんのアパートへ何回か遊びに行ったことがある。それで、この高円寺
周辺の街並みを気に入ったのだ。
「それにしても急だね」
と梅田さんが言った。
「ちょうど年度代わりですし。心新たに引っ越しを」
とオレは言った。
「淳之介、今、髪伸びてないか?」
梅田さんが、そんなことを言う。突飛な発言は梅田さんの十八番なので、
「まあ、伸びてますけどもー」
オレは平坦に返事をする。梅田さんは破天荒でお茶目。小卒で、親と一緒に全国を
転々と旅しながら大人になった。今まで就職をしたことがなく、現在は無理のない時
間範囲でアルバイトをして稼いで、音楽に金を使って、気ままに過ごしている。オレ
より五つ年上の三十二歳のこの男は、高円寺の2DKのアパートで、奥さんと二人で
暮らしている。
梅田さんとオレは、二年ほど前に、友だちの友だち、という間柄で知り合った。風
来坊の梅田さんと、大学を卒業してサラリーマンをしているオレとは、共通点がなさ
そうなのに、なぜか意気投合をして、だんだんと問の友だちの介在なしに二人で遊ぶ
ようになった。
「髪、切りに来いよ。オレ、今、髪切ってるところだから。淳之介、うちのご近所っ
てことは、南口だろ?北口に来い。交差点を渡れ。それから『純情商店街』を抜け
て『庚申通り商店街』の中を歩くんだ。すると、『桂美容室別室』っていう、クール
な美容院があるから、そん中に入って来い。髪切ったあと、花見だから」
強引な誘いにのり、引っ越し作業を放って部屋を出ると、道すがら春の匂いがした。
商店街の中を進んでいくと、梅田さんの言っていたごとく、小さいがかっこいい店
がひとつあって、店の前に置いてある立て看板には「桂美容室別室」と書いてあった。
屋根は瓦、壁はモルタル、古くからある一軒家を改築したような店舗だ。道路側全面
の壁は木枠の格子窓で、そのガラス越しに梅田さんが手を振ってきた。くせっ毛を活
かしてそうしているのか、寝起きみたいにぼさっとした髪型だ。

(本文P. 3〜5より引用)

 

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