「おい、起きろや」
聞きなれない声に目を覚ました僕は、眠気で重いまぶたをゆっくりと持ち上げた瞬間、
眼球が飛び出るかと思うくらいの衝撃を受けた。
なんだ、コイツはー!?
枕元にヘンなのがいる。象のように長い鼻。鼻の付け根からのぞく二本の白い牙(片方
の牙はなぜか真ん中あたりで折れている)。そしてぽってりとした大きな腹を四本ある腕
の一つでさすっていた。
こんなやつが。
長い鼻をゆらーりゆらーりと揺らしながら、目の前に座っているのである。
昨日、たまたま家に泊まっていった同級生みたいな感じで。
直感的に、「ああ、これは夢だな」と思った。まだ夢の中にいるのだ、
きっと。僕はよく夢を見る。いつも眠りが浅いせいかもしれない。眠りが浅
いと疲れが取れない気がするし、その上こんな化け物と遭遇するなんてつく
づく嫌な体質だと思う。でも、僕は開き直ることにした。夢だと分かれば恐
れることはない。
「お前、だれ?」
大胆にたずねてみた。すると化け物はふん、と鼻を一つ鳴らして言った。
「だれやあれへんがな。ガネーシャやがな」
そして「タバコ、吸うてもええ?」と言いながら、僕の返事も待たずに、丸テーブルの
上に置いてあるマイルドセブンの箱からタバコを一本取り出すと火をつけた。やつが手に
している黄色の100円ライターに見覚えがあった。というか、それ僕のだ。
ヴネーシャレ一名乗った化け物は、六畳一間の低い天井に向かってぷばーと煙をはきなが
ら言った。
「で、覚悟でけてる?」
「は?」
「いや、『は?』やあれへんがな」
頭がずきずきする。二貯酔いだ。まだ残っている酒と寝起きとでくらくらとめまいがす
る。(なんでこいつは関西弁なんだ?)そんなことを考えながら化け物をうつろな目でな
がめていた。その時僕は不思議なことに、こいつ、どこかで見たような気がするなあと
思ったけど、それがいつ、どこでなのか思い出すことはできなかった。
いずれにせよ。
もう少ししたらこいつは消えていなくなるだろう。なんてったって、これは夢なんだか
ら。
「夢ちゃうで」
突然、強い口調でガネーシャが言ったのでびっくりした。こいつ、人の心が読めるの
か?
「もっと見ようや、現実を」
何の話だ?
「自分、そんなことやから、『夢』を現実にでけへんのやで」
なんなんだこいつは。あーなんか腹立ってきた。もういいや、寝よ寝よ。面白そうだっ
たからちょっと付き合ってやろうかと思ったけど、急激にムカついた僕は、朝の眠りを再
び楽しむべく化け物にプイと背中を向けた。
あ。
その時だった。
突然、僕はその化け物のことを思い出してしまったのだ。
「いや、そんなはずは……」 |