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 レット・バトラー 新編・風と共に去りぬ 1 ゴマ文庫 G058L
 
ドナルド・マッケイグ/著 池田真紀子/監訳  出版社:ゴマブックス 定価(税込):800円 
第一刷発行:2008年7月 ISBN:978-4-7771-5065-6   
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「風と共に去りぬ」21世紀の新作!波瀾に満ちた少年時代、南北戦争、そしてスカーレットとの出会い……香り高き歴史大河ロマン!
 
レット・バトラー 新編・風と共に去りぬ 1 ゴマ文庫 G058L

本の要約

チャールストンの大農場主の長男・レット。奴隷を酷使する父に反抗し、士官学校は放校、決闘騒ぎを起こして実家から勘当される。南部を旅立ち、商人として各地を放浪するレットは、持ち前の商才を発揮しはじめる。ひとかどの男となり、南部に立ち寄ったレットは、バーベキューパーティで、スカーレットという美しい少女と衝撃的な出会いをするが……。

【著者紹介】 ドナルド・マッケイグ(Donald McCaig)
『Jacob's Ladder』で数々の賞を受賞し、バージニア・クォータリから「史上最高の小説家」と評されている。同作品はマイケル・シャーラ賞・南北戦争小説賞、バージニア図書館賞・小説賞を受賞。マーガレット・ミッチェル財団より『レット・バトラー』の執筆を指名された。

【監訳者紹介】 池田 真紀子(いけだ まきこ)
英米文学翻訳家。訳書にディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋)、クラーク『幼年期の終わり』(光文社古典新訳文庫)、パラニューク『ファイト・クラブ』(ハヤカワ文庫)、マドセン『フロイトの函』(角川書店)など。


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オススメな本 内容抜粋

第1章 決闘

南北戦争勃発まで十二年、日の出まで一時間。サウスカロライナ州東部ローカ
ントリーを一台の馬車がひた走っていた。アシュレー川沿いの街道は漆黒の闇に
沈んでいる。その闇を、馬車の側灯だけがほのかに照らしていた。開け放たれた
窓から霧が渦を巻いて流れこみ、車中のふたりの頬や手の甲をうっすらと湿らせ
た。
「レット・バトラー。この救いようのない頑固者めが」ジョン.ヘインズはそう
つぶやいて座席に身を沈めた。
「何とでも好きに言ってくれ」レットは頭上の小窓を開けて御者に尋ねた。「おい、
まだ着かないのか。紳士諸君を待たせたくないんだがね」
「もう本道に入りましたですよ、レット様」ヘラクレスはレットの父親が所有す
る競走馬の調教師で、ブロートン農園の奴隷のなかではもっとも高い地位にある。
今朝のことを聞きつけたヘラクレスは、御者を志願して譲らなかった。
レットはあらかじめこう警告していた。「俺を送り届けたなどと知れてみろ、
親父の雷が落ちるぞ」
それでもヘラクレスは聞き入れなかった。「レット様、あたしは坊ちゃまがこ
んなちっちゃな子どもだったころから知ってるですよ。初めて坊ちゃまを馬に乗
せたのもこのヘラクレスじゃなかったですかね?さあ、坊ちゃまとヘインズ様
の馬を後ろにつなぎなさい。あたしがおふたりをお送りしますから」
ジョン・ヘインズの頬は子どもみたいにぽっちゃり丸みを帯びているが、対照
的に、顎の線は並外れた意志の強さをうかがわせる。いま、ジョンの口はむっつ
りと真一文字に結ばれている。
「この辺の沼地はいいな。正直なところ稲田の農場主になりたいなんて一度も考
えたこともないんだ。親父が米の品種やら黒人の扱いかたやらについて長々と講
釈を垂れ始めると、俺はそんな話はそっちのけでひたすらこの川のことを考えて
る」レットは目を輝かせ、友人のほうに身を乗り出した。「霧のなか、櫂を操っ
て気の向くままに沼を行くんだ。いつだったか、朝、ふだんはカワウソの通り道
になってる場所をアカウミガメが滑り下りてて驚いたこともある。ただ滑ってる
んじゃない、滑って遊んでたんだぞ。なあ、ジョン、きみはアカウミガメが笑っ
た顔を見たことがあるか?
眠ってるヘビウを起こさずにやり過ごそうと何度挑戦しただろうな。しかし、
ヘビウは警戒心が強くてね、こっちの気配を察したとたん、翼の下に隠してた、
まさにヘビみたいな首をひょいと伸ばすんだ。たったいままで眠ってたとは思え
ないくらいお目々ぱっちりでね。で、次の瞬間には」─指をぱちんと鳴らす
─「水に飛びこんで消えてる。そうそう、用心深いと言えば、クイナもいい勝
負だな。陸の張り出したところを舟が回ったとたん、数百羽がいっせいに空へ飛
び立つんだ。こんな霧のなかを飛ぶんだぜ、想像できるか?」
「きみの想像力はたくましすぎると思うね」ジョンはそう答えた。
「いや、きみこそ慎重すぎるんじゃないのか。そうやって気力体力を温存してる
のは、いったいどんなごたいそうな目的のためなんだ?」
湿ったハンカチでこすったせいで、ジョンの眼鏡はかえって曇ってしまった。
「いつかきっと、きみが心配してくれることをありがたく思える日も来るだろう」
「おっと、悪かったよ。ジョン。そう怒るなって。ところで、火薬は湿ってたり
しないだろうな」
ジョンは膝に載せた艶やかなマホガニーの箱に手をやった。「大丈夫、僕が自
分できっちり蓋を閉めたからね」
「あ、ほら、聞こえるか。ヨタカの鳴き声だ」
速足で行く馬のひづめが地面を蹴る音、革の馬具がこすれる音、そして「行
け!それ、もっと速く!」と馬を叱咤激励するヘラクレスの声。それに、なる
ほど、たしかにヨタカの三和音の歌声が聞こえた。ヨタカといえばーシャド・
ワットリングとヨタカにまつわる逸話をどこかで聞かされなかったか。
「我ながらいい人生だったよ」レット・バトラーが言った。


(本文P. 8〜11より引用)


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